2024年 05月02日(木)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

2022.11.26 08:00

【裁判記録廃棄】保存へ意識の切り替えを

SHARE

 重要な裁判記録が失われると後年の検証もできなくなる。「国民共有の知的資源」を軽視していると受け止められては司法への信頼を損なう。徹底した検証と再発を防止する取り組みが欠かせない。
 地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教に対する解散命令請求の関連記録を、東京地裁が廃棄していた。和歌山県の明覚寺に対する解散命令の関連記録も和歌山地裁で廃棄されていた。
 宗教法人の解散は「信教の自由」を定めた憲法に関わる問題であり、慎重な対応が求められる。このため結論にとどまらず、書類や法廷でのやりとりなど審理の過程を残す意義は極めて大きいはずだ。
 最高裁は規定で、非公開で審理される民事事件の記録の保存期間を5年とする。同時に、史料的価値が高い記録や社会的な関心が高い事案は事実上の永久保存に当たる「特別保存」を義務付けている。
 オウム真理教の解散請求は、東京都知事と東京地検検事正が1995年6月に宗教法人法に基づき申し立てた。10月に地裁が解散を命じる決定をし、その後最高裁で確定している。関連記録は2006年3月に廃棄されたという。
 裁判記録を巡っては、19年に戦後の重要な民事裁判記録の多数が廃棄されたことが判明している。日本社会の形成に影響を与えた審理の記録が失われたことに批判が高まった。存廃を各裁判所に任せるのではなく、最高裁が記録を戻す際にその重要性を判断する仕組みの必要性などが当時も論じられた。 
 こうしたことから、重要な記録は永久保存するように運用要領を見直す動きもあり、特別保存の件数はそれからは大幅に増えてはいるようだ。ただ、そうした対応が、保護対象とすべき全てに行き届いたとは限らない。
 最近も、重大少年事件の記録廃棄が各地の家裁で相次いで発覚している。その内容の全てが公開されるわけではないとはいえ、真相が公になっているわけではない。廃棄により事件の検証が難しくなったことが問題視されている。
 そうした対応が一家裁にとどまらなかったことは、廃棄から時間が経過しているとはいえ重く受け止めなければならない。一般的な基準に則してはいても、特別保存への理解が十分だったとは言い難い。管理の在り方を改めて見つめ直すことが再発防止の基本となる。
 この問題で、記録保存の運用が適正だったかどうかを検証する有識者委員会が初会合を開いた。最高裁の堀田真哉事務総長は、適切に保存する仕組みが十分ではなかったと謝罪した。裁判所全体の問題と受け止める以上、徹底した調査を基に対処策を探る必要がある。
 文書管理は司法にとどまらず重要課題だ。公文書の廃棄や改ざんは民主主義の根幹にも関わってくる。ずさんな対応は許されない。保存や取り扱いについての議論を深めることが求められる。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月