2022.11.19 08:45
マスク困難者に理解を 高知観光の男性、ひろめ市場で何度も確認され...【なるほど!こうち取材班】
ひろめ市場がマスク着用が難しい人向けに発行するマスクなし許可証
投稿者は京都府在住の50代の大学院生。発達障害で触覚や聴覚の感覚過敏の症状もあり、不快感や息苦しさから長時間のマスク着用ができない。大学院では発達障害者の移動支援について研究しており、その調査を兼ねて9月に来高したという
ひろめ市場の入り口に掲示された、マスク着用が難しい人向けの対応の説明などを記した張り紙(高知市のひろめ市場)
男性は「診断書は持ち歩くものじゃないし、手帳があるのにさらに提示を求めるのは過剰要求だと思う。かばんにヘルプマークも付けていたのに、許可証まで付ける必要がありますか。(疑われたようで)とても悔しかった」と話す。
この声に対し、同市場を運営する「ひろめカンパニー」の担当者は「対応の仕方に至らないところがあった」としながらも、マスク着用はずっと悩ましい問題だと話した。
同市場は県内外の人が集まる〝高知の顔〟だけに、安心して足を運んでもらう場であることが最重要課題だ。新型コロナ対策として出入り口は2カ所に限定し、警備員が一人一人の体温をチェック。手指消毒を促すなどしており、「マスク着用は対策の一丁目一番地です」。
ただ、数カ月前にマスク着用が困難な観光客が訪れた際、「場内でスタッフが何度も注意したことで立腹された」経緯があり、スタッフの目印として考えたのが許可証だったという。「他のお客さんが不安に思ったり、『自分もしなくていいや』となったりしないように、という配慮もある」。診断書については「障害の内容がマスクの着用の難しさと直結しているのか判断が難しく、こちらが納得できる理由を確認させてもらうために見せていただこうとなった」と説明した。
同社は今回の件を受け、障害者手帳やヘルプマークの意味合いについてスタッフに周知。ただ今後も許可証は続けるとし、意図の説明や理解を求める張り紙を入り口に掲示した。場合によっては、無理にではないが診断書の提示を求めることもあるとし、「頂いた意見を基に、随時もっといいやり方を考えていきたい」と話した。
障害者らの外出支援などを行うNPO法人「福祉住環境ネットワークこうち」の笹岡和泉理事長は「診断書を出してもらうのは費用がかかるし、そもそも日常的に持ち歩くものでもない。障害者手帳やヘルプマークがあれば、やむを得ない事情があると分かってほしい」と言う。
同時に「コロナ禍で多くの施設が同じ悩みを抱えていると思う」と推し量り、「本人に、許可証を付けるかどうかを決めてもらえばいい。(風通しの良い)入り口付近の席に座ってもらう策もある。いずれにせよ、本人が選べる選択肢を用意する『合理的配慮』が大切だ」と訴える。
県は今回の件を受けて10月中旬、サイトにマスクの着用困難な人やヘルプマークの周知について情報を掲載した。来年1月には、観光や宿泊業関係者らを対象にバリアフリー観光についてのセミナーも予定している。
山本久充子県おもてなし室長は「それぞれの人が抱える事情を理解し、相手を思いやる気持ちが『おもてなし』になる。マスクができない人もいることを理解してもらうよう取り組む」とした。
こうした動きに、投稿者の男性は「自分が伝えたことが誰かの気づきになり、心のバリアーを取り払える機会になればいい」と話し、こう続けた。
「高知観光は楽しかったので、また行きたいです」(森田千尋)
【ズーム】合理的配慮 障害がある人から求められた際、負担が重すぎない範囲で手助けすること。車いす利用者のため段差にスロープを置いたり、聴覚障害者と筆談をしたり―などがある。国や自治体の義務で、2021年には民間事業者にも義務付ける改正障害者差別解消法が成立、24年6月までに施行される。