2022.11.08 08:42
牧野標本に感じた「アート」 ラッピング紙面を作品化、菅原一剛さん監修で販売―デジタルPlus
桜標本ラッピング紙面と同サイズのオリジナルプリント作品
牧野標本の美しさに魅了されて撮影を行った菅原一剛さん(東京都渋谷区のギャラリー「BLANDET」)
「博士が描いた植物画の卓越した細密な描写力。ひたすらに美しかった。ぼくは一枚の絵画と対峙(たいじ)するかのような感覚でそれらの画をながめ、博士の植物画の数々に魅了された。そして次に見せてもらったのが植物標本だった。博士が100年以上前に作った標本が、まるで今も生きているかのように美しかった。彼の植物画にも通じる美意識の下で作られていることが、ぼくにも手に取るようにわかった」
そして写真家・菅原さんの思いは「植物標本」に向かいます。「アート」として「植物標本」を捉えたのです。菅原さんの熱意は牧野植物園のスタッフたちにも伝わりました。同園には5500点に及ぶ牧野標本があります。その中から造形的にも美しい41点が厳選されました。
撮影は昨年11月、牧野植物園で行われました。世界最高水準となる1億5千万画素のデジタルカメラを使い、高度なライティングを駆使して、41点を撮影しました。撮影画像は、その場ですぐにパソコンの画面に映し出されました。「まるで今も生きているかのように美しい」。スタッフたちから感嘆の声が上がります。新たなボタニカルアート誕生の瞬間でした。
標本の植物たちは部位ごとに「ラミントンテープ」というもので固定されています。もちろん撮影写真にはテープも映り込んでいますが、高精細画像データにデジタル処理を施して丁寧に取り除きました。植物そのままの造形を復元したのです。標本植物のどこにテープが貼られていたのか。専門家も判別しがたい仕上がりとなりました。
撮影が終わり、年が明けました。そして2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻が始まります。それから本紙は連日の1面トップから、この戦争を伝え続けました。菅原さんは両国を旅したこともありました。その雄大で自然豊かなロシアとウクライナの風景は、そっくりそのままだったことがよみがえり、悲しみを深めます。この信じられない戦争にショックを受けて、新聞をめくることもできなくなるほどでした。
そして4月24日を迎えようとしていました。私たちは撮影した41点の中から、迷いなく平和の象徴でもある桜を選んで、当日の新聞を包み込もうと思いました。博士の生誕160年となる日を祝い、植物を愛する大切さを伝え、そして平和への願いを込めました。戦後の牧野博士は口ぐせのように言っていたといいます。
〈植物に感謝しなさい。植物がなければ人間は生きられません。植物を愛すれば、世界中から争いがなくなるでしょう〉
この博士の言葉を添えてラッピング紙面をデザインしました。デザインの仕上がりが見えてきたころ、チームの若手女性から提案がありました。このメッセージは世界に伝えるべきものだから英文も入れましょう、と。
そうやって4月24日の高知新聞は読者に届けられました。
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菅原さんは牧野標本作品を欧米やアジアで紹介しようと海外での写真展開催も視野に入れています。まずは美しいボタニカルアートとして多くの人に楽しんでもらう。そして、その標本は「MAKINO」という稀有(けう)な日本の植物学者によって作成されたものだと世界の人に知ってもらいたい。そんな思いからです。菅原さんのプロジェクトを支援するため、高知新聞社はラッピングに使った菅原さん監修の作品の販売を始めています。販売代金の10%は牧野博士を顕彰する団体やプロジェクトに寄付します。(竹内一)
◆販売作品の詳細は特設ページをご覧ください。