2024年 05月01日(水)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

2022.10.25 08:35

軍国少年が命救う医師に…94歳現役「はまだ小児科」の浜田義文医師―そして某年某日(22)

SHARE

診察中の浜田義文さん。「たんが絡むかどうかで、処置が変わるんです。その音を確認しますね」(高知市桟橋通1丁目の「はまだ小児科」=山下正晃撮影)

診察中の浜田義文さん。「たんが絡むかどうかで、処置が変わるんです。その音を確認しますね」(高知市桟橋通1丁目の「はまだ小児科」=山下正晃撮影)


 さまざまな人や風景の「ある日」「そのとき」を巡るドラマや物語を紹介します。

 「熱冷ましは本人がしんどい時、控えめに使ってください。子どもの熱の高さは、病気の重さと必ずしも一致しない。特に3、4歳までは、すぐ跳ね上がります。ぐったりすれば別やけど、そこそこの元気、食欲があれば大丈夫」

 「それとお母さん、これも頭に入れておいてください。子どもがしんどいのは、下痢よりも嘔吐(おうと)。子どもは大人以上に、水で生きている。その水分が取れなくなりますからね」

 浜田義文(ぎぶん)さんは1928(昭和3)年生まれ。94歳、現役の小児科医だ。「はまだ小児科」(高知市桟橋通1丁目)で、今は週2回の診察に当たっている。

 「長い経験が生きる場面も、多いんです。まだお役に立てるかな、と。あまり知られていないけど役に立つ知識のあれこれを、お母さんらに伝えたい」

 人生最大の岐路は、45(昭和20)年8月に訪れた。当時17歳の浜田さんは、軍の幹部養成学校の生徒だった。敗戦に伴い軍は消滅、学校も廃止された。

 もしもあの戦争が、もう少し長引いていたら―。浜田さんは本土決戦の戦場に投入されていただろう。 

◇    ◇ 

44年春。「陸軍幼年学校」2年生、15歳の浜田さん(本人提供)

44年春。「陸軍幼年学校」2年生、15歳の浜田さん(本人提供)

 浜田さんは土佐中学校(旧制)在学中、部隊を指揮する将校に憧れ、熊本の陸軍幼年学校(陸幼)を志願した。陸幼は全寮制の軍学校で、全国6カ所にあった。

 「20人に1人の合格率」と聞かされた狭き門を突破して、43年春に入学。太平洋戦争の開戦から、1年半近くが経過していた。この時、14歳。

 厳しい軍事教練を繰り返しながら最終学年の3年生になった45年、敗色はいよいよ濃厚となった。

 浜田さんらは、敵戦車の下にもぐり込み自爆する訓練を反復した。日本の対戦車砲の弾は、米軍戦車の分厚い装甲にはね返される。だから歩兵が戦車に接近し、弱点である底の部分を狙った。

 技術や生産力などの不足を、現場の多数の人命で補う。旧軍の悪弊の一つだが、浜田さんには迷いがなかった。

 「軍隊で“純粋培養”されましたから。軍国主義の塊で、命知らず。単純といいますか…。自分の身を捨てて、こいつ(戦車)をやっつけな、いかんと。国家・国民のため、喜んで死ぬつもりだった」

 ある日、学校敷地内で、敵機の機銃掃射を受けた。わずか数メートル脇を、銃弾が次々とかすめた。この時は「恐ろしい」と感じた。

 ◇    ◇ 

 このころ浜田さんら3年生は、下級生を率いて戦場に向かう態勢を整えていた。

 陸幼は、全国から13、14歳のエリート少年を選抜。その生徒たちはいずれ、軍組織の中枢を担う。その人材すら、戦車への体当たりを想定して前線に送り込む。日本軍は末期状況に追い込まれていた。

 浜田さんの覚悟は固かった。戦場では常に先頭に立つ。死ぬ時は倒れてなお、敵の足に食らいつく―。

 「敵は『勝つか負けるか』で戦場に臨んでくる。こちらは『勝つか死ぬるか』なんです。だから(ある局面まで)日本の軍隊は強かった」

 同校の教育は、軍事一色でもなかった。午前中は外国語、音楽を含む「学科」、午後が「教練」。

 ちなみに浜田さんは「日本が戦争に勝てば英語はいらんかな」と考え、外国語はドイツ語を選択した。

 教官や上級生に殴られたことは、一度もなかった。

 「むしろ土佐中で、よく殴られました。医学部では教授の命令が絶対で、軍隊より厳しかった」

 45年8月の敗戦、そして軍の解体に伴い、陸幼も廃校となった。浜田さんは身一つで、焼け野が原となった高知に帰郷。ひとまず土佐中に復帰した。

 敗戦は悔しかったが、もう空襲におびえることもない。平和のありがたさを実感した。

 一方で、自らの将来を、ゼロから描き直す必要がある。当時17歳。さあ、これから何で生きていこう―。

※記事は全文閲覧できます。無料の会員登録で月10本まで。ご登録こちらから!

この記事の続きをご覧になるには登録もしくはログインが必要です。

高知のニュース 高知市 子育て 医療・健康 語り継ぐ戦争・戦後 そして某年某日 赤ちゃん会

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月