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2021.10.25 18:57

遠藤周作と高知 狐狸庵先生とUFO 連載・文学の土佐(171)

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20年ほど前、この上空に小型円盤が飛来した? (高知市介良、右手が介良中 )

20年ほど前、この上空に小型円盤が飛来した? (高知市介良、右手が介良中 )

(1993年3月14日掲載)

作家遠藤周作氏は、別名“狐狸庵”という。

 ある日、いつものように惰眠をむさぼっていると、珍奇な話が舞いこんできた。 四国高知の中学生が、空飛ぶ円盤を拾ったというのだ。場所は高知市介良。生徒たちはテレビにも出演し、はっきり証言した。・・・狐狸庵先生、眠い目をこすりながら、半信半疑であった。

 「信じられるか。そんな話」

 円盤など雲の影、なにかの光の誤認だと聞いたことがある。別の惑星から飛んでくる円盤の存在など狐狸庵、どうも信用できん。

 (中略)
 
「兎狩りではあるまいし捕まえたということ自体が可笑しいワ」

 が、 やくたいもないことが大好きな狐狸庵先生、虫が騒ぎだし、すぐに高知へ旅立つこととなった。いまから二十年ほど前、 初冬のことだったらしい。

 高知ははじめてである。さぞかし暖かかろうと思っていたら、寒さは東京と変りはなく町のたたずまいも日本中、どこにもある地方都市とそう違いはない。 

 ハリマヤ橋というのも市の中心にあるオモチャのような小さな橋でその下には川も流れてはおらん。 土産物屋にはカツオブシにサンゴ、それに土佐犬の玩具が並べてある。

(中略)

 その高知市からタクシーで三十分、問題の介良町につく。 どこでも見られる風景で畠あり、工場あり、遠くにさほど高くない冬の山がならび、どう考えても別の惑星に住む存在が興味を起す場所とは思えぬ。

(中略)

 タクシーの窓から冬の介良町を眺めながら、(本当かいな)と狐狸庵の疑惑、ますます強まってきた。

 介良で、中学生たちが待ってくれていて、早速詳しい話に入った。円盤は小型で、田んぼに落ちていた。銀色で底に穴が開き、カニのはうような音がし、青白い光を出した。石をぶつけても水をかけても変化はなし。 家に持ち帰ると不意に姿を消し、ふたたび現れたのを縛っておいたら、煙のようにまた消滅してしまった…。

 世界には円盤を見たという人間は数えきれぬくらい、いるかもしれぬが、円盤を拾うたという少年たちは日本国、高知市、介良町、介良中学校の生徒たちを除いてはあるまい。

 彼等が決して嘘、でたらめを言っているのではないことは狐狸庵との対談中の表情からもはっきり言える。
 
 だが、その物体はいったい何であり、どうやって消えたのか? まるで「狐につままれた感じ」である。

 何もかも解明されてきたはずの世の中に、不可解で珍妙な話が転がっているものよ・・・ 狐狸庵先生 思案投げ首の様子であった。

 ――以上は、「ボクは好奇心のかたまり」(新潮文庫版)からの引用。

  とまれこの円盤騒ぎ、よほど遠藤氏の印象に残ったらしい。昨年朝日新聞のエッセーにも取り上げ、「高知県の中村市に小さな小さな空飛ぶ円盤があまた飛来して中学生たちがその一つを捕まえ…」「私はすぐ飛行機で飛んで行き…」と、”介良〟を〝中村〟と取り違えながら回想していた。

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