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2022.10.09 05:00

【イランのデモ】「弾圧」を即時停止せよ

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 イランの人権状況を巡り、同国内外で緊張が高まっている。
 髪を隠すスカーフのかぶり方が不適切だとして拘束されたクルド人女性が急死し、各地で抗議デモが相次いでいる。人権団体によると、治安当局の取り締まりで少なくとも50人以上が死亡し、数百人がけがをした。さらに、デモに関与したとして隣国イラク北部のクルド人自治区を一方的に攻撃。ここでも多数の死傷者が出ている。
 イラン政府は治安維持のためと主張するが、大勢の市民を犠牲にした上、他国まで攻撃するのでは独善的に過ぎる。「弾圧」の即時停止を求める。
 イスラム教が国教のイランでは1979年の革命以降、公共の場で女性は外国人も含め、スカーフなどで髪を隠すことが義務になっている。ただ、近年は隠さない女性も増えたため、イスラム教に厳格な保守強硬派のライシ政権が取り締まりを強化。巡回する「風紀警察」も増えていた。
 抗議デモのきっかけは先月中旬、そうした状況の中で発生した。
 同国西部出身の女性が、旅行先の首都テヘランで連行され、警察署で死亡。当局は「突然の心臓発作」と釈明したが、取り締まり強化への反発もあって市民に警察による暴行を疑う声が広がった。デモは各地に拡大、一部が過激化した。
 行き過ぎた取り締まりが市民の反発を招いた格好だが、当局はデモを「暴動」と位置付け、実弾射撃や警棒による殴打などで抑え込み、多数の死傷者が出た。外国人やジャーナリストの逮捕も相次ぎ、一部の地域ではインターネットを遮断するなどして鎮圧を図っているという。人権軽視も甚だしい。
 イラン政府は「デモの背後にクルド人系の反体制派がいる」「外国勢力の扇動」などとして、革命防衛隊が9月下旬からイラクのクルド人武装勢力の拠点をロケット弾やドローンで攻撃している。隣国を巻き込む一方的な攻撃は、地域の情勢を不安定化させかねない。国内外に及ぶ暴挙に、欧米などが新たな制裁で非難を強めるのも当然といえよう。
 イラン政府の一連の言動には、市民の目を国外に向ける思惑がにじむ。それでは混乱は収まるまい。そもそも抗議デモが拡大した背景には風紀の取り締まり強化だけでなく、疲弊した経済への不満があろう。国際社会による経済制裁は、イランが核開発を進めた結果だ。
 2015年に欧米など6カ国と結んだ核合意は、イランが核開発を制限する代わりに欧米が制裁を解除する内容だった。米国の合意離脱もあったにせよ、イランもウラン濃縮を継続して関係国の不信を招いたことは間違いない。
 イラン政府に求められるのは、国内外の問題に正面から向き合うことだろう。国内で強権的な対応をやめ、国際社会では核合意の立て直しに向け信頼を醸成する。それなくして、市民に渦巻く不満を解消することはできない。

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