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2022.09.19 08:37

子育てママ、一念発起 シイタケ農家 山崎桃子さん(44)高知市―ただ今修業中

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「頑張った分だけ返ってくるのがうれしい」と話す山崎桃子さん(香南市夜須町坪井)

「頑張った分だけ返ってくるのがうれしい」と話す山崎桃子さん(香南市夜須町坪井)


 じめっと蒸し暑いビニールハウス。土色の食パンのような物体が、番号札の掛かった何列もの棚にずらりと並んでいる。

 ぱんぱんっと手で一つずつたたきながら棚の間を回っていく。まるで何かの研究所のよう。

 「こうやって菌床をたたくと早く発芽するんです。子孫を残さなきゃって、焦るみたい。不思議でしょ」

 菌床シイタケの栽培を始めて4年。高知市の住まいから香南市夜須町のハウスに日々通う。以前までは農業に全く関心のない子育てママだった。

 ◆

 高松市出身。専門学校時代に大阪で出会った夫と28歳で結婚し、夫の働く高知市へ。娘と息子を産み、事務の臨時職に就いた。

 5年ほど働いたころ、1年契約というパートの身分にふと不安になった。いつ更新が止まるか分からない。このまま将来に向かっていいものか―。

 そんな話を夫としていると、夫が「農業とかどう? 老後は2人でもやれるし」。でも畑仕事は力がいるからなあ、と答えを流すと、翌日から夫があれこれ調べ始めた。農業ハウスにも行く配管工の夫は、なんだか前から計画していたかのように乗り気だった。

 「これは? そんなに力いらなそう」と提案されたのが、菌床シイタケ。2人で国内生産量1位の徳島県へ出向き、種菌メーカーの指導員の案内で農家を見学して回った。

 パートの代わりに始めることに、行く先々で「そんな簡単じゃないよ」と言われた。毎年の菌床の購入費用、栽培管理、生産量の確保…。考えることはたくさんあり、全員がそろって失敗を案じた。

 「大きなチャレンジが苦手でずっと生きてきたのに、じゃあやってやろうって気になった。ほんと謎やけど」

 40歳。子ども2人はまだ小学生。金融機関から借金して、長年使っていなかった夫の祖母のハウスを改修し、菌床を6千床購入した。

 やってしまった。安定を求めていたはずなのに、もう後戻りできない。夫だけが「大丈夫、大丈夫」と言っていた。

好きな言葉

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 ◆

 菌床は5月に入荷後、4カ月間培養し、収穫期に入る。ちゃんと育つには温度と湿度の調整が大事。収穫期は一つの菌床から何度もシイタケが生え、生産量の確保には水やりなどの工夫が要る。時折たたいたり、ひっくり返して水に漬けたりと刺激を与え、発芽を早めないといけない。

 初年、収穫期は深夜までハウスに残った。むくむく出てくるシイタケに、感動よりもほっとした。出荷後、直販市の売り場をこっそり見守り、手に取る人に感激した。

 「育てた物を買ってくれるのが、こんなにうれしいとは思わんかった。これが農業かって思った」

 1人の作業は厳しいと思い知り、翌年からパートを雇った。2年目は形などを競う全国の品評会で金賞を受賞。飲食店にも出荷するようになった。

 前年と成長具合を見比べながら、試行錯誤の日々。データを取り、温度管理や水やりの頻度を考える。「今年は大丈夫やろか」と今も眠れぬ夜がある。夏に生えてくる品種も扱い始め、菌床は8千床に増やした。

 ブランド名は「はちきん椎茸(しいたけ)」と名付けた。「はちきんみたいに前向きに。夫が退職して老後になっても、ずっと長く続けたい」と笑った。

  写真・土居賢一
  文 ・福田一昂

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