2022.09.05 08:36
「何となくいい」にこだわる 額装・表具職人 岩崎卓実さん(28)高知市―ただ今修業中
「お客さんに満足してもらえるよう、今できることを一生懸命やっている」と話す岩崎卓実さん(高知市布師田の工房)
高知市布師田の工房。展覧会に向け、書道作品のしわやたるみを取り除いて補強し、美しく額装する作業に汗を流す。
書道用品の販売、額装や表具を扱う家業を手伝うようになって5年目。ものを作る仕事がしたくて、高知工業高校、西日本工業大学で建築を学んだ。大学卒業後は設計事務所に就職し、住宅や店舗の設計に携わった。
「働いてみると仕事は想像以上に厳しかった。“これが最良か。もっといい案はないのか”とどんどん突き詰めていく作業で際限がない。仕事以外には何もできない。このまま仕事を続けていけば命が持たない、と…」
仕事を辞めて実家に帰ると、額・軸の装飾や表具を作っている職人が高齢になり、そろそろ世代交代が必要という話が聞こえてきた。「もの作りが好きだし、結構こだわる性格。デザイン寄りの仕事をしていたこともあって、自分に向いているかもしれないと、この道に入ることにしました」
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初めはうまくいかないことばかりだったという。
書道作品を額装や軸装にする作業では、作品を霧吹きで湿らせてしわやたるみを取り除き、紙をプレス機にかけてピンと伸ばすのだが、「変な所に線が入ったり、跡がついたり…。そうならないようにするにはどうすればいいか。経験を積んで覚えていくしかないんです」。紙や墨の特質などを学び、試行錯誤を繰り返していった。
客からの希望もさまざま。「全部お任せします」という人もいれば、額装用の台紙として着物の帯を持ち込む人も。「お客さんから直接要望を聞いたりする中で、自分なりにイメージを膨らませて反映するようにしています」
この仕事をするようになってから思い出した言葉がある。「プロが100考えた中で、お客さんに一つか二つ分かってもらえれば上々」―以前働いていた設計事務所の所長の言葉だ。
自分たちが、表面には見えない部分で多くの工夫やアイデアを注いでも、もしかすると客には伝わらないかもしれない。でも、陰で黙々と積み上げてきたものが家や店舗といった形になった時、客は「これ、何となくいいなあ」と言ってくれる。「自分たちはその“何となく”をつくるために日々努力しているんだ」と―。
改めてその言葉をかみしめながら、もの作りに励む。「注文を受けた作品をお客さんに渡した時、『何かうまく言えないけど、出来上がった作品すごく好きです』と言ってもらえると、とてもうれしいですね」
好きな言葉
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仕事はまだまだ覚えることが多く、毎日が勉強。一方で、新しいことにも挑戦していきたいという。それは、びょうぶや掛け軸といった伝統工芸的なもの作り。
「去年、掛け軸を作っている職人さんに作り方を教えてもらったんですが、手作業の技術はとても難しい。でも、掛け軸とかびょうぶを一から作れるようになりたい。やはり引き出しはたくさん持っていた方が絶対にいいですからね」
写真・新田祐也
文 ・池添正