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2022.08.30 08:20

【なるほど!こうち取材班 パートナー紙とともに】マンション工事音に悲鳴 基準値内「対応できず」 福岡市

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男性が騒音被害を訴える工事現場(写真はいずれも福岡市中央区)

男性が騒音被害を訴える工事現場(写真はいずれも福岡市中央区)

 「隣でマンション建設の工事が始まり、騒音被害に悩まされています」。福岡市中央区の男性から、西日本新聞「あなたの特命取材班」にこんな相談が寄せられた。調べてみると、住民を騒音被害から守る法規制が十分とは言えず、行政による工事業者への指導に限界があることも分かってきた。法改正に加え、「お互いさま」との意識の転換が必要との声が識者から出ている。

 ベランダから見える目の前で工事が始まったのは2月1日。鉄製のものをクレーンで高いところから落として穴を掘る「基礎くい打ち工事」が4月中旬まで続いた。

 「工事中の日中は窓を開けることができない音量。騒音で気分が悪くなり、寝込むこともあった。ひどい時は大きな音とともにテーブルが振動し、(2005年の)福岡沖地震を思い出した」。工事は来年12月末まで続くと言われており、頭を抱えている。

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別の工事現場では、騒音や振動の値を業者が近隣住民に公表する対策を行っていた

別の工事現場では、騒音や振動の値を業者が近隣住民に公表する対策を行っていた

 取材班は福岡市中央区生活環境課に問い合わせた。

 著しい騒音が発生する機械を使う「特定建設作業」(以下、特定作業)の場合、騒音規制法で「敷地境界で85デシベルを超えないこと」と定められている。ブルドーザーや削岩機などを使った工事は特定作業に該当し、自治体に届け出が必要となる。

 ただ、2月上旬から始まったくい打ち工事は、特定作業には含まれない。投稿した男性は「仮に特定作業に該当しなくても、日常生活に大きな支障をきたす工事をそのままにしてよいのだろうか」と疑問を抱く。

 男性が2月26日から3月9日まで、自ら計測器で音を測定すると、85デシベルを超えた時が8回あったとしている。

 4月中旬以降、地盤沈下しないように土を留める作業(土留め工事)で油圧式ハンマーが使われ、これは特定作業に該当した。凹凸になっている鋼の板を垂直に埋め込む工程で、著しい振動とエンジン音がした。

 6月30日、男性から「すごい音がする」と相談を受けた市の職員が現場に駆け付けた。ただ職員が計測したところ、「85デシベルにはぎりぎりで達せず、法律上は違反にはならない」との説明を受け、対応は終了した。

 工事業者は男性のマンションの住民に対し、「音や振動に配慮して法律の範囲内で工事を行っている」と説明しているという。

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 福岡市環境保全課の杉山明子課長は、今回の事案について「工事業者に声を届けた。防音シートの設置など業者もできる限り対応はしている」と話した。一方で特定作業以外の騒音に対しては業者に指導できず「法律だけで解決するのは難しい現実がある」と説明した。

 「騒音規制法で数値基準は示されてはいるが、誰が騒音を測るか明記がなく、行政が指導する根拠がそもそも曖昧だ。そのため、実際の騒音対策は業者任せになっており、法改正が必要だ」。住環境の問題に取り組む同市の田中慎介市議はこう訴えている。

 建築紛争の当事者らでつくる「福岡・住環境を守る会」の代表世話人、池永修弁護士=福岡市=は「お互いさま、でがまんすべき問題と捉える人が多く、泣き寝入りする被害者は多い」と指摘。「法令は最低基準に過ぎず、基準さえ守れば住民の権利を侵害してよいというわけではない。市民も行政も、平穏に暮らす人格的利益が侵害されている意識を持つことが大切だ」と話している。(西日本新聞)


 県民・読者とつくる調査報道企画、高知新聞「なるほど!こうち取材班」(なるこ取材班)。県内企画のほか、連携する全国のパートナー紙の記事を随時掲載で紹介します。

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