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2022.08.27 07:00

【森英恵と日本映画黄金時代】#2 北原三枝らをモードに 1956年「風船」の舞台裏

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 映画「風船」のキャスト。左から新珠三千代、三橋達也、北原三枝、森雅之、芦川いづみ<(C)日活>

 森英恵さんへの娯楽映画研究家・佐藤利明さんによる2005年のインタビュー。話は映画「風船」の舞台裏へ。


   ×   × 


 ―作品にはシナリオ読みから入られる?


 「はい。大体助監督さんですね。シナリオを頂いて助監督さんと打ち合わせして、イメージを作ってデザイン画を描くんです。それが、助監督さんを通してきっと監督さんにいくんですね。監督さんには(準備の)最後にお会いするくらい」


 ―日活映画「風船」(1956年、川島雄三監督)は北原三枝(現石原まき子)さん(小悪魔的歌手)、左幸子さん(明るい苦労人)、芦川いづみさん(妖精的社長令嬢)。新珠三千代さん(薄幸のバー店員)、4人の全く違うタイプの女性が登場します。当時で言うモード、最新のもので?


 「そうだと思います。北原さんはシャンソン歌手役ですよね。毛皮の模様とか当時の流行じゃないですか。そういうのを着てベレーの帽子もかぶったりして、もちろん今だったらもうちょっといいのができると思ったけれど、芦川さんの襟の詰まった服にしても工夫を凝らしていましたよね」


 ―北原さんはファンタスティックですね。


 「ほんとね。スマートでスタイルのいい人」


 ―印象的なのは新珠さんが最初にバーで出て来る時のスタイルが、夜の女性というよりはハリウッド女優みたいに。襟のシルエットが奇麗です。


 「奇麗ですね、顔も奇麗です。スタイルもいい。違った種類の4人の女が出てくるわけですから(デザインは)一応分類しなくてはいけないわけですよね。私なりに一生懸命やったと思います」


 ―新珠さんが銀座のバー店員で夫を戦争で亡くした設定も時代ですね。


 「そうですよね。男も女もたばこをのむんですよね。今だったら、たばこの位置づけが違いますよね。北原さんは美しい持ち方でスタイリッシュですよね。手元がチャームポイントだから、力入れて良く作れと(スタッフから)言われたことは思い出します。北原さんの衣装は、たくさんやらせていただきました」


 ―女優さんからリクエストはありましたか。


 「芦川さんは割とおとなしい方で、お任せでしたけれども、新珠さんはいろいろスタイルがありましたね。色物は着ないとか、いつも黒とかベージュ、白とか紺とか、光と影みたいな感じでまとめていました。新珠さんは初めて日活で撮影された『花のゆくえ』(55年)から、東宝に移られてからも、お亡くなりになるまでしょっちゅう遊びに来られて、長いお付き合いで、いい方でした」


 ―「風船」で言うと森雅之さんや三橋達也さんの衣装も森先生で?


 「いえ、男優さんはテーラーがいらしたんですけれども。ネクタイとか上着の布地を少し柔らかくしたいから上着の布地を欲しい、とかのご相談を受けましたね。でも女優さんが中心でした」


 ―森雅之さんはどんな俳優さんでしたか。


 「いいですよ、こういう男いないんじゃないですか、どう? 『挽歌』(57年松竹、五所平之助監督)もこの方でしょ。相手役をした高峰三枝子さん(の衣装)をやったんですよ。フランス映画に出て来るそういう雰囲気ですよね。嫌らしさが全然ないし」


 ―いざ撮影となると現場に呼ばれることは?


 「何本も掛け持ちしてましたから忙しかったです。監督さんが現場で初めて(衣装を)見ることもありましたから。急に直しが出るわけですよ」


 ―毎月何か作品を?


 「ええもう。(映画会社が)6社は入っていて大変でした。衣装デザインはシナリオが持っている世界を衣装に置き換えていくんです。しかも分かりやすく。監督さんによって女性観がありますよね。根掘り葉掘り聞いてやらせていただきましたが、川島先生はとてもやりやすかったです」


 ―「風船」のヒロインの写真でも、それぞれシルエットが美しい。


 「落下傘スタイルがあって、長さなんかも」


 ―川島監督のファッションはどうですか。


 「とても洗練された独特の優しい方で、ファッショナブルでした。フェミニストだったし。助監督さんたちが、川島先生と働きたいという方がいっぱいいましたよね。川島監督には誰が付くのか競争する感じでね。『風船』を見たら助監督に今村(昌平)さんの名前が出ていましたね。すごいことですよね、これは」



<第3回は8月28日午前7時。全3回>


   ×   ×


 さとう・としあき 1963年生まれ、東京都出身。往年の映画や歌謡曲の魅力をさまざまな媒体で発信。近著に「番匠義彰 映画大全 娯楽映画のマエストロ」など。

(c)KYODONEWS

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