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2022.08.23 08:00

【タリバン復権】国民の困窮に目を向けよ

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 アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが、政権を掌握して1年がたった。約20年にわたる泥沼の戦争は終わったが、国民の生活はむしろ困窮の度を深めている。
 イスラム法を掲げた特異な統治で女性への人権侵害が横行し、テロ組織との関係も続いている。国際的孤立の中で、より内向きになった印象が拭えない。再びテロの温床に戻さないためにも、国際社会は圧力とともに対話を通じて人権状況の改善を促す必要がある。
 タリバンは1996年に政権を樹立し、イスラム法の極端な解釈に基づく抑圧的統治を敷いた。2001年の米中枢同時テロ後、国際テロ組織アルカイダ指導者のビンラディン容疑者の引き渡しを拒み、米軍などの攻撃で政権は崩壊した。その後勢力を盛り返し、駐留米軍の撤退完了を前に昨年8月、再び首都カブールを制圧して復権した。
 この1年、暫定政権の統治は国際社会の懸念通りだったと言うほかない。かつての強権統治をほうふつとさせる。女性の中等教育は全面再開されず、公共の場で目の部分以外の顔を布で覆うよう命じた。女性だけでの長距離移動も禁止している。
 抑圧の対象は女性に限らない。国連の人権報告書によると、民主政権時の国軍兵や政府関係者160人が司法手続きも経ずに処刑され、記者や人権活動家の拘束も相次いだ。
 これでは国際承認は難しい。制裁が続くのも自らの統治が招いた結果といえる。ただ、そのしわ寄せが広くアフガン国民に及ぶ現状を看過はできない。
 米国などはタリバン復権後、アフガン中央銀行の在外資産を凍結。人道支援以外の送金が制限され、経済は停滞した。資金不足による政権の機能不全もあり、国民は物価高騰や失業などに苦しんでいる。
 世界食糧計画は11月にかけ、全人口の45%が深刻な食料危機に陥ると予測する。薬剤などの不足で医療も危機にひんし、国民生活は極めて厳しい状況にある。それにもかかわらず、暫定政権はかつての統治時代に時計の針を巻き戻そうとしているようにみえる。
 20年の和平合意では、駐留米軍の撤退と引き換えにテロ組織との関係を断つとしたが、米国がことし7月末、カブールでアルカイダ指導者のザワヒリ容疑者を殺害。テロ組織との関わりが露呈した。
 アフガンが20年もの混乱に陥ったのは、国際社会をゆるがせるテロ組織を支援したからだ。最低限のルールさえ守れなければ、国際社会への復帰など認められないことを認識するべきだ。自国民を再び悲劇に巻き込むことがあってはならない。
 タリバンは長期の戦争を経て実効支配勢力になった。その事実を踏まえれば、タリバン抜きの国造りも現実的ではないが、国民の困窮が長引けば新たなテロを生む土壌になりかねない。戦争の当事者として、米国などにはアフガンの戦後に責任があろう。率先して人道危機の解消を働き掛ける義務がある。

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