2022.08.17 08:40
救急搬送困難がコロナ第7波で12倍に 高知市「大規模災害級」
出動が増加している高知市消防局の救急隊員。電話で搬送先を探す件数も急増している(高知市筆山町)
「救急指令、救急指令」。12日午前11時半ごろ、市中央消防署(同市筆山町)にアナウンスが響き渡った。上下水色の「感染防止衣」に身を包んだ3人の救急隊員が素早く救急車に乗り込み、サイレンを鳴らしながら現場に向かった。
同署には救急車が2台配備されているが、もう1台は管轄外の土佐山地域で救急搬送中。「コロナが感染『第7波』に入った7月中旬以降は、2台とも出っぱなしという状態がざらにある」。片田浩署長が険しい表情で〝異常事態〟を説明する。
同署近くで心肺停止の患者の救急要請があった際は、出動できる救急車がおらず、まず同署の消防隊員が真っ赤な消防車で現場に駆け付けて救命措置を実施。救急車は3・5キロ離れた東消防署から向かったという。
8月14、15の両日には市内全11台の救急車が同時に出動し、署や出張所にいなくなる事態も起きた。
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7月以降、同市の救急車出動件数は前年比の1・28倍(8月14日現在、2887件)に。救急搬送が急増する一方、患者を受け入れる病院が見つからない状況が常態化してきている。
救急車は現場に到着後、医療機関に受け入れの可否を電話で照会して搬送先を決める。それが決まらない「救急搬送困難事案」(4回以上照会かつ現場滞在30分以上)は、同市消防局で8月8~14日の1週間で61件あり、コロナが疑われる事例は47件を占めた。現場に4時間14分とどまったケースもあった。
10、11日の「よさこい特別演舞」の期間中には、家族で祭りを見に来ていた県外の高齢女性が「倒れて頭を打った」と、救急搬送要請があった。
市中央消防署の救急隊員が病院に受け入れ可否を照会すると、真っ先に「発熱はありますか?」と聞かれた。39度近いことを伝えたところ、「発熱患者用のベッドが埋まっている」と断られた。
市消防局は全11台の救急車に専用タブレットを配備。他隊がどこに電話したかや、受け入れ可能な病院はどこかといったことがリアルタイムで分かる。この隊員は、タブレット上で「満床」とか他の隊が断られたと表示されている病院にも「ダメ元でとにかくかけた」。約1時間半、電話をかけつづけて20回目。やっと「満床ですが、何とかしましょう」という病院が見つかった。
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同署の別の隊員は8月上旬、新型コロナで自宅療養中の男性が転倒し頭にけがをしたとの通報を受けた。現場で確認すると、脈拍や心電図などに異常はなかったものの、頭に外傷があったため脳外科がある病院に搬送しようとした。
しかし、どこも受け入れてくれなかった。次にコンピューター断層撮影(CT)検査ができ、コロナ対応もしている病院を当たったが駄目だった。約2時間、病院との交渉は25回に上った。それでも見つからなかった。
男性と相談し、定期的に連絡してくれる人も見つかったため、自宅にとどまってもらうことにした。「その後、救急要請はなかったから大丈夫だと思うが…」と隊員。「今まで、こんなことはなかった」と焦燥感を募らせる。
市消防局によると、コロナの感染拡大に伴って「病院に電話してもつながらない」「熱が出たが、どうしていいか分からない」といった119番通報が目立ってきており、陽性確認の検査のためだけに高知市から香美市の病院に救急車で搬送する事例もあったという。
片田署長は「出動件数が増え、活動は長時間化し、搬送先を見つけるのも大変困難。隊員はかなり疲弊している」と訴え、救急現場の現状を「既に大規模災害級の異常事態になっている」と強調した。(村上和陽)