2022.08.01 05:00
【NPT会議】粘り強く成果を追求せよ
2015年の前回会議は、核軍縮への具体策を盛り込む最終文書を採択できなかった。今回、再び決裂する事態に陥れば、核の脅威を抑制する国際秩序の形骸化を印象付けかねない。「核なき世界」への機運を守る意味でも、具体的な成果を出す重要性は格段に増している。
NPTは核保有を5カ国に限定し、核軍縮や不拡散、原子力の平和利用の3本柱で構成。191カ国・地域が加盟する。通常5年ごとに開かれる会議は今回、新型コロナウイルス禍で2年の延期を余儀なくされた。この間、交渉環境は一層厳しくなったと言わざるを得ない。
前回、NPT体制下で特権を有する核保有国側と、核軍縮の停滞にいらだちを募らせた非核保有国との溝が埋まらず、交渉決裂を招いた。非保有国側が主導する形で核兵器を全面的に違法化する核兵器禁止条約が国連で17年に採択され、初の締約国会議がことし6月に開かれた。保有五大国はいずれも参加せず、対立の構図を引きずったままだ。
さらに保有国間もロシアのウクライナ侵攻により米英仏と中ロとに分断され、交渉の難航は必至とみられる。危うい現状を冷静に捉え、粘り強く妥協点を探りたい。
先行した核兵器禁止条約の締約国会議は、核兵器廃絶へ即時の行動を求めるウィーン宣言を採択し、「NPTとは補完し合う関係」を強調した。これは非保有国側が保有国側に具体的行動を求めるとともに、保有国側と議論する必要性を改めて認めた結果でもあろう。
一方、保有五大国はことし1月、核戦争回避を「最大の責務」とうたい、NPTで課された「誠実に核軍縮交渉を行う義務」を確認し合ったとする共同の首脳声明を発表した。国際社会で高まる核廃絶への機運を多分に意識した対応である。
それから間もなく、ロシアがウクライナに侵攻し、核使用をちらつかせる暴挙に出た。共同声明の趣旨に反するのは明らかで、非難されてしかるべきだ。ただし、再検討会議が非難の応酬に陥れば、議論全体が暗礁に乗り上げる恐れがある。交渉の進め方に知恵と工夫を要する。
核を巡る課題はロシアだけではない。核技術開発を進めるイランのほか、北朝鮮の核・ミサイル問題、中国の核戦力増強などが山積する。
日本周辺の安全保障環境が厳しさを増したのは確かだが、政府は核廃絶の流れに逆行するかのように、米国の核戦略指針見直しを巡って先制不使用政策に反対するなど核抑止力強化に動き、核兵器禁止条約にも背を向けた。
再検討会議で岸田首相は、唯一の被爆国として保有国と非保有国の「橋渡し役」を担うとするが、具体的にどう貢献するのか。核軍縮をライフワークとする岸田首相と日本外交の覚悟と地力が問われる。