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2022.07.08 08:40

【2022参院選 高知/徳島】山を見捨てないで 生活インフラ崩壊迫る―声よ届け

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山の上まで食料品を運ぶ移動販売車。中山間地域の食生活を支える重要な生活インフラだ(香美市香北町谷相)

山の上まで食料品を運ぶ移動販売車。中山間地域の食生活を支える重要な生活インフラだ(香美市香北町谷相)


 「新しい資本主義」を掲げ、経済成長と分配との好循環を目指す岸田政権。しかし、過疎高齢化に悩む本県では、成長や分配はおろか、生きるために必要な食料品や燃料の調達すらもままならなくなりつつある。生活インフラ崩壊が忍び寄る、中山間地域の実情を探った。

撤退する移動販売
 くねくね道を上ってきた1台の軽トラックが軒先に止まる。買い物袋を持った高齢女性がつえを突いて、ゆっくりと姿を見せた。

 「今日は一段と暑いねえ。アイスでもどう?」と軽トラの男性。「いるいる。何を持ってきてくれちゅうかね」。女性は車の荷棚を見やり、じっくりと品定めを始めた。

 香美市香北町の中心部、美良布から北東寄りにある谷相地区。千メートル級の山々の麓で、61世帯113人が暮らす。交通手段を持たない高齢者の食生活を支えるのは、2事業者がそれぞれ週1回巡回する移動販売車だ。

 夫と2人で暮らす女性(73)によると、かつては地区にも商店や農協の購買所があった。だが20年ほど前から、店主の高齢化や後継者不足などで、徐々に店が消えていった。

 女性は1年前に運転免許を返納した。地区には市営バスも走っているが、足腰が弱っていることもあり「バスで買った物を持って帰るのは難しい。便も少ないし」とこぼす。

 ところが、地区に来る移動販売車のうち、1事業者は来年3月限りで撤退する予定。自分で買い物できる機会は、週2回から1回に減ることになる。

 「移動販売はなくならんと信じたいけど…」とうつむく女性。「どこも山を見捨て始めゆうんやないかね…。もうけにはならんかもしれんけど、弱い消費者も守って」

ドローンで解決?
 農林水産省の2015年推計値によると、食品スーパーやコンビニまで500メートル以上あり、車も利用しづらい75歳以上は全国で約535万人。本県は約4万9千人で、同世代の39・5%を占める。

 同省が21年度に行った全国の市区町村へのアンケートでは、86・4%が食料品の「買い物弱者」対策が必要と訴え、73・4%が何らかの手だてを講じているとした。ただ、その内容はコミュニティーバスなど移動手段の支援が83・7%で突出し、買い物代行や宅配、移動販売車への支援は3割程度にとどまる。

 また近年、国は買い物弱者対策の切り札として、ネットスーパーなどの利用を想定したドローン物流を実験中。が、アンケートに回答した自治体は「高齢者のネット利用率は低い」と指摘した。

 施策のミスマッチ感も漂う中、疲弊が進む中山間。来春以降も谷相地区に巡回するサンプラザ(土佐市)の担当者は言う。

 「燃料高や人口減少でコストに見合う売り上げとは言いづらいが、人がいれば需要はある。見守りも含めて地域に根差している事業なので、ルートもなるべく増やしたい」

赤字覚悟で恩返し
 食料品店と同様に、消滅が住民生活を左右するのが給油所だ。

 資源エネルギー庁は、給油所不足で車や農業機具への給油、灯油の配送に支障をきたす市町村を「SS(サービスステーション)過疎地等」と定義。県内では34市町村中23市町村が該当する。

新装オープンに向けて準備が進む給油所。運営は赤字覚悟(日高村本村)

新装オープンに向けて準備が進む給油所。運営は赤字覚悟(日高村本村)

 高岡郡日高村北部の山あい、仁淀川沿いに位置する能津地区。唯一の給油所だったJA高知県の事業所が昨年末、経営難で閉鎖した。「ボイラーで湯を沸かすき、灯油は年中いるのに…」。人口400人余り、高齢化率約60%の地区に困惑が広がった。

 村は「住民生活を守らないと」と、JAから土地と建物を無償で譲り受け、指定管理者を公募。地区の田中建設が担うことになり、8月10日に新装オープンする予定。

 同社の中沢豊年社長(70)は「(収支)計算は全然合わん。赤字になる」と明かす。それでも請け負うと決めたのは「災害時にも絶対必要な施設。村で公共事業をやらせてもらいゆうし、過疎が進む地域に恩返しをせないかん」との思いからだ。

 社会生活を支えるライフラインですら善意頼み―。そんな危うい構造で、中山間の営みは保たれている。(福井里実、楠瀬健太、高本浩史)

高知のニュース 日高村 香美市 2022参院選 高知/徳島

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