2018.06.02 05:00
「アユ王国」で暮らす幸せ仁淀川 大量遡上 用水路まで/鏡川 友釣り甲子園 実現へ―なんのこっちゃ総合研究所 高知の幸せ探しシンクタンク 所長・ 黒笹慈幾(27)
仁淀川で5月18日に行われた特別採捕(調査釣り)の様子(写真はいずれも大村嘉正撮影)
〈小学校から帰って来た息子が、手に何かが入ったビニール袋を持っている。聞くと通学路沿いの用水路でアユを拾ったという〉で始まり、〈息子は、まだたくさんのアユが水たまりに取り残されているので、助けに行くと言い10匹ほどのアユをバケツにすくってきた〉と続く。
通学路の水路にまでアユの稚魚が遡(さかのぼ)ってきたことに驚き、助けに行くと言ってバケツをとりに戻った息子のやさしさを喜ぶ親の気持ちが行間にあふれている。
同時に大量の稚アユの遡上をもたらした、高知の豊かな自然への畏敬の念がにじみ出ている。
それを読んだ感想を黒ちゃんのフェイスブックに投稿したところ、たくさんの「いいね」をいただいた。
さらに静岡在住のTomomi Yosidaさんからは「素晴らしいことです。それに比べて我が巨鮎の富士川は…。もう鮎移住するしかありません」というトホホなコメント(失礼!)とともに地元の新聞記事の切り抜きがアップされた。
そこには「富士川、アユには“死の川”」という大見出しの下に、富士宮市の芝川漁業協同組合が昨年5月に行った資源調査の結果が報じられていて、調査を担当した専門家が「富士川はアユにとって死の川と呼ばれても仕方ない状態と指摘した」とある。
片や大量遡上のアユが用水路まであふれる仁淀川、片や砂利採取や山崩れによる慢性的な濁りで死の川同然になっている富士川。
静岡在住のアユ釣り師にはまことに申し訳ないが、高知に暮らす幸せを感じざるを得なかった。
この原稿を書いているのは5月24日なので、6月1日の解禁のことは分からない。
しかし、大幅な天候悪化でもない限り30年ぶりといわれる大量遡上のアユに喜ぶ太公望たちの景気のいいコメントで高知新聞が埋まるのは間違いないだろう。
アユの王国・仁淀川の美しいアユ
さてここでアユに関わるもうひとつ、うれしい話題があるので紹介したい。
昨年の9月、当欄で中高生たちが自らアユ友釣り大会を運営している岐阜県郡上(ぐじょう)市の例を挙げ「高知でもやるべし! なぜできないのか?」と書いたので、ご記憶の方もいると思う。
「貴重なアユ釣り文化を次世代に継承していく責任が大人たちにはあるのでは?」という、黒ちゃんのアジテーション(扇動)だったのだが、そのムチャぶりの提案に(笑い)、いち早く反応した人たちがいた。鏡川漁業協同組合である。
土佐山で開催
4月上旬に副組合長のKさんから「黒ちゃんの提案している中高生のアユ友釣り大会、あれをどうしても鏡川でやりたいのでいろいろ相談に乗ってほしい」という電話があった。
さっそく鏡川橋のたもとにある組合事務所に駆けつけ、いくつかの意見や助言をして帰ってきたところ、5月に入って漁協から郵便物が届いた。中には組合長の挨拶文とともにカラー印刷されたチラシが同封されていた。
チラシには「友釣りチャレンジ 友釣り甲子園」(案)と大きな文字が踊っており、平成30年8月5日(日)土佐山弘瀬地区の鏡川で中学生と高校生に限った友釣り大会が開催されることになっている。
挨拶文には〈あれから役職員一同で何度も協議を重ね、友釣りチャレンジ「友釣り甲子園」という形で実施する運びとなりました。(中略)初めての試みですので成功するかわかりませんが、いろいろな角度から鏡川の良さをアピールしながら釣り文化の普及に貢献できたらと思っています〉とあった。
子どもたちに継承
当日は午前中にアユの生態や川の環境を学ぶ座学と実技指導があり、大会は午後に行われる。初めて友釣りをする子どもたちを想定し、市内の複数の釣り具屋さんの協力を得て、友釣り道具一式も用意されるらしい。
いよいよ高知でもアユ釣り文化の継承に向けて関係者が動き始めたのだ。鏡川は県都のど真ん中を貫く高知県民にとってかけがえのない、アユ泳ぐ清流である。
そこを舞台に高知県初の中高生アユ友釣り大会が開催される意味は大きい。言い出しっぺの黒ちゃんにとって、これほどうれしいことはない。
前出の「閑人調」は最後に〈アユの大群が仁淀川を遡上し支流の川に入る。そのまた支流の川に入り、ついには用水路に入る。アユの王国の誕生だ〉と結んでいる。
まったくそのとおり、異議なし! である。高知は昔から、今でも、そしてこれからもアユの王国であり続けなければならない。「蛙」さん、次のコラムは「続アユの王国」でお願いします(おせっかいですな)。
それからおせっかいついでに静岡のYosidaさん、高知への鮎移住、早くやっちゃいましょうよ(なんのこっちゃ)。(元編集者、高知大学客員教授)