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2016.12.03 05:00

津波避難タワー開放を 地元に愛される施設へ 愛称公募 平時から活用 中土佐町久礼―なんのこっちゃ総合研究所 高知の幸せ探しシンクタンク 所長・ 黒笹慈幾(9)

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中土佐町久礼にある津波避難タワー「純平タワー」

中土佐町久礼にある津波避難タワー「純平タワー」

 その名を「純平タワー」「八千代タワー」という。正式には「純平」が第1号津波避難タワー、「八千代」が第2号津波避難タワー、つまり津波避難タワーの愛称なんである。

 若い人は知らないかもしれないが、久礼の町(現在の中土佐町久礼)を舞台にした青柳裕介の大ヒットコミック『土佐の一本釣り』の主人公ふたりにちなんだネーミングだ。

 黒ちゃんが東京でビッグコミックオリジナルの編集をやっていたときに、兄弟誌のビッグコミックに1975年から86年まで連載していた作品である。

 黒ちゃんがタワーの純平と八千代に初めて出会ったのは、今年の10月に仕事で久礼の港を訪ねたときだったが、すでに純平は2014年6月、八千代は翌15年4月に竣工していた。

 当時の新聞記事によると第2号の完成に合わせて公募で愛称がつけられたようだが、無機質で殺伐なイメージが先行する津波避難タワーに名前をつけるという着想がステキだし、久礼の人々が『土佐イチ』(編集部では作品をこう呼んでいた)に寄せる深い想いも伝わってきた。

津波襲来の映像 見ながら考えた
 11月22日の早朝、福島沖でマグニチュード7・4の地震が起きた。青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の沿岸に最大で高さ1・4メートルの津波が襲い、6県で計約1万4千人が避難する事態となった。幸い被害は軽微で人命も損なわれずに済んだが、東日本大震災の惨禍を思い出し、不安な数時間を過ごした人が多かったはず。巨大地震はいつどこで起きても不思議ではないという冷酷な事実を、日本国民は再び目の前に突きつけられることになった。

 そして、黒ちゃんは繰り返し津波避難を呼びかけるテレビのニュースを見ながら、純平タワーと八千代タワーのことを思い出したのである。

 高知県では津波対策として、海辺の町に津波避難タワーがすでに90棟(8月末の数字)完成、これから建設予定のものも含めると115棟が計画されているという。地震のあと間髪入れずに襲ってくる津波には「てんでんこ」(各自バラバラにの意)に高い場所に逃げるのが唯一の対処法だから、津波避難タワーはイザというとき海辺の住民の命を守る要の施設になる。

 そこで今回の「なん総研」のテーマは、津波避難タワーである。黒ちゃんは防災・危機管理の専門家ではないので、一般人が抱くであろう素朴な疑問からスタートする。それは「なんで津波のときしかタワーを使わないの?」である。

津波の時しか使わないのはもったいない
 じつは黒ちゃん、恥ずかしながら津波避難タワーというものに上ったのは久礼が初めて。なぜかといえば「立入禁止」だと思っていたから。「どうぞ自由にお入りください」と言われて最初は戸惑い、次に「これは素晴らしい!」と感動したのである。

 そこからの眺めはまるでジオラマのようだった。日戻り漁の小さな魚船がひしめく久礼港、商店街とその周囲に民家が密集する久礼の町並み、遠くキラキラと輝く土佐の海が一望できる。

 「ひゃーっ、これって展望台じゃないの」と思わず叫んでしまったのだ。

  考えてみれば、何ごともないときの津波避難タワーは巨大なおじゃま虫である。景観を台無しにするし、近隣の日照も遮る。

 必要悪といったら言い過ぎだが、イザという時のために作った避難タワーの平時の使い方は地元にとって大きな課題であろう。

 中土佐町役場・危機管理室に取材すると「用地確保が難しくて海岸に作らなければならなくなった時点で、地元の人たちに愛されるタワーにするしかないと発想の転換をしました。津波が来る海の方向に向かって避難するというのは心理的な抵抗がありますからね」とのことだった。

 完成式典で池田洋光町長は「命のタワーであり、町のランドマークとして住民に愛されるよう願う」とも発言している。(2014年6月23日の高知新聞)

  タワーに愛称を付けて24時間365日立ち入りOKにする、が久礼の人々が熟慮の末たどり着いた結論だった。黒ちゃんが喜んだ「展望台ジオラマ効果」はおまけである(笑い)。

 確かにいつも散歩などで利用している施設であれば、暗闇の中でも手探りで避難できる。階段が辛い人のために傾斜スロープも付けた。景観を考えてデザインも親しみやすい円筒形にし、強度確保のため地下の岩盤に30メートルの長さの杭も打ち込んだ。

漫画『釣りバカ日誌』で提案されたタコ型シェルター(c)やまさき十三・北見けんいち/小学館

漫画『釣りバカ日誌』で提案されたタコ型シェルター(c)やまさき十三・北見けんいち/小学館

 県庁の南海トラフ地震対策課によると、タワーの管理は地元自治体にまかされているが、常時開放の例は少ないという。安全面を配慮してのことだろうが、「地域に愛される施設」という発想で久礼のように平時の利用法をあれこれ考えてみたらどうだろうか。

 ちなみに去年の秋に発売されたコミック単行本『釣りバカ日誌93・高知編』(小学館)の中で、鈴木建設社長のスーさんが知事に提案した常時開放の画期的アイデアがある。

 「巨大すべり台つきタコ型シェルター」っていうんですけど、どこかで採用いただけませんかね(笑い)。(高知大学特任教授、元編集者)

高知のニュース なんのこっちゃ総合研究所

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