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2022.06.19 08:00

【原発避難判決】「想定外」なら免責なのか

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 東京電力の福島第1原発事故から11年余り。避難した住民らが国に損害賠償を求めた集団訴訟で、最高裁は「想定外」の災害を理由として、国の賠償責任を否定した。
 東電を規制する立場にある国の法的責任の有無について事実上、決着した格好だ。後続の関連訴訟に大きな影響を及ぼすことになる。
 同様の裁判は全国で約30件あり、今回は福島、群馬、千葉、愛媛の各県で2013~14年に提訴された4件の統一判断。国とともに被告となった東電に関しては最高裁でことし3月、約14億5千万円の賠償責任が確定している。国の責任は高裁段階で群馬訴訟が否定。ほかの3件は認めており、判断が割れていた。
 一連の裁判では、巨大津波を予測できたか、対策をとっていれば事故を回避できたかどうかが大きな争点となってきた。
 政府の地震調査研究推進本部が02年に地震予測の「長期評価」を公表し、福島沖を含む太平洋側の広い範囲で、マグニチュード(M)8級の大地震が起こる可能性を指摘。大津波の恐れを警告した。これを根拠に東電の子会社が08年、福島第1原発に最大で約15・7メートルの津波が到達すると試算している。
 原告の住民側は、それらの予測に基づいて国が防潮堤設置や建屋の浸水対策を命じていれば、全電源の喪失による事故は免れたと主張。一方の国は、長期評価は精度や確度を欠いていたと反論していた。
 だが、最高裁は津波の予見性に関する評価を避け、「想定外」の自然災害で事故は回避できなかったと結論付けた。実際の津波は規模などが試算を超えており、国が対策を命じていたとしても浸水の可能性は高かったとした。
 東電の説明をうのみにする旧原子力安全・保安院の規制権限の機能不全を批判しつつも、結果論から極めて形式的に因果関係を否定したと言える。「想定外」なら免責されるというに等しい。
 安全性を担保すべき規制と事故に因果関係がないのであれば、原発活用の前提そのものが説得力を失おう。何の落ち度もないにもかかわらず、古里を失い、人生を狂わされた住民らには、極めて非合理な結論と映ったに違いない。
 ただ、事故との直接的な因果関係は認められなくても、国は原発を推進してきた道義的な責任から逃れることはできまい。
 裁判が長期に及び、原告約3700人のうち、110人以上が古里に戻ることなく亡くなった。なかには自殺とみられるケースもあった。この事実を政府、東電とも改めて重く受け止めなければならない。避難者はいまもなお、約3万人に上る。
 今回の4件の訴訟を含めた一連の裁判では、文部科学省の「原子力損害賠償紛争審査会」が11年8月に策定した指針を上回る損害が認められている。国は避難者が提訴しなくても被害実態に見合う賠償がきちんと受けられるよう、真摯(しんし)に対応する責任がある。

高知のニュース 社説

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