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2022.05.29 08:00

【世界の食料危機】飢えの広がりを防げ

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 ロシアによるウクライナ侵攻が、世界的な食料危機を引き起こりつつある。とりわけ途上国への影響は深刻化しており、国際社会は対策を急ぐ必要がある。
 ロシア、ウクライナとも世界有数の穀倉地帯であり、小麦の輸出量は合わせて世界の約30%を占める。トウモロコシや大麦、食用油などの生産量も突出し、世界の食料需要を支えていたが、侵攻後、供給が滞りだした。
 国連食糧農業機関(FAO)によると、ウクライナの穀物輸出の拠点である黒海沿岸の港をロシアが封鎖し、輸出を妨害していることが一因だという。
 また、侵攻を受けるウクライナでは営農活動そのものが難しくなっている。FAOは、農業従事者の避難や徴兵により、農地の3分の1が耕作できない状況だとする。ロシアも穀物の国内自給を優先し、近隣諸国への輸出制限を始めた。
 これらの影響は、両国への食料依存度が高い中東やアフリカの途上国を中心に出始めている。穀物の価格高騰が市民生活を直撃。内戦状態が続いて食糧事情が悪化していたイエメン、シリアなどでは、飢餓拡大の深刻な懸念が生じている。
 ロシアは食料危機を「米欧の制裁が原因」と主張するが、侵攻が、当事者ではない途上国や貧困国を追い込んでいるのは事実だ。早期停戦を実現し、ウクライナからの輸出が再開されるよう、国際社会は圧力を強めていくべきだ。
 食料需給の逼迫(ひっぱく)に伴い、生産国が囲い込みに動く事例も見られる。小麦の生産量で世界2位のインドは今月、輸出禁止方針を表明。インドネシアはパーム油を禁輸とした。米高官は今年末までに、世界で計4千万人が極度の貧困や食料不足に陥る恐れがあると指摘する。
 先進7カ国(G7)は、ウクライナの農業や輸出を支援し、食料価格の動向を監視していくことで一致。国連も危機回避に乗り出している。食料が円滑に供給されるよう、実効性のある取り組みが求められる。
 食料を巡っては侵攻前も、産地諸国の異常気象や、新型コロナウイルス禍からの経済回復により、需要が高まり、価格が高騰する傾向があった。ロシアの侵攻はその流れを浮き彫りにして、さらに拍車をかけているとも言える。
 国内でも、食料安全保障が大きな課題になってきた。2020年度のカロリーベースで食料自給率は37%にとどまる。災害時など非常時に国民の食料を調達できるか、心もとない状況と言わざるを得ない。
 食料危機により、小麦製品や食用油などが値上げされ、家計や関連業界の負担も増している。
 与党は、食料安保の強化策を話し合う委員会を設け、政府への提言を目指している。小麦や大豆などの増産支援、農地改良の促進、米の有効活用などを求める方向だ。
 食料の生産現場として地方の役割も小さくない。農業基盤の底上げにつなげる視点も必要だ。

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