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2022.05.04 08:00

【みどりの日】山への「追い風」生かせ

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 山の緑が映える時季になった。だが一見して鮮やかなその緑も、内側をのぞけば別の顔をさらけ出す。手入れされず放置され、殺伐とした空間も少なくない。
 山が荒れたのは、安価な外材の輸入で国産材が競争力を失い、適切に伐採されてこなかったためだ。全国屈指の森林県である高知県は長年、この構造に苦しんできた。だがここに来て「追い風」も吹いている。しっかりと帆を張りたい。
 一つは、国産材の地位、価値が上がっていることだ。
 昨年来、新型コロナウイルス禍からの経済回復が進む米国や中国で住宅需要が急増。外材が入りづらくなった国内では、原木、製材品とも品薄になる「ウッドショック」が起こった。品薄傾向は、森林資源国のロシアにウクライナ侵攻で経済制裁が科され、拍車が掛かっている。
 この影響で、扱う材を外材から国産材に切り替える住宅会社が見られるなど、国産材の相場は上昇した。短期的には市場の困惑や消費者の負担増も招いているが、国産材による持続可能なサプライチェーン(供給網)を築くことができれば、原木生産や製材業界は安定する。ひいては山村の雇用や定住、森林整備にもつながることが期待される。
 山には、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の追い風も吹く。2050年の実現を目指す政府が、支援を本格化させている。
 伐採後に植林された樹木は二酸化炭素(CO2)を吸収する。森林県の取り組みの裾野は広く、本県も「グリーン化」を重点施策に掲げる。林地の更新には木材の需要拡大が重要であり、建築物を木造化することの環境貢献度を測定する研究などにも取りかかった。
 19年度から始まった森林環境譲与税(国税)の配分と、森林経営管理制度も、山にはプラスの話だ。
 森林環境譲与税は地方自治体に配分され、森林整備だけでなく、人材育成、木材利用の推進、啓発事業などに充当できる。山の整備のために長年求めてきた財源を、中山間の自治体は確保したことになる。
 森林経営管理制度ではその財源を使い、放置された私有林を市町村が預かって民間業者に経営を任せることができるようにした。放置林の扱いはどこも頭を悩ませてきた問題で、対応策をようやく得た。
 ただ、こうした追い風に即応するのが難しいことも事実だろう。
 国産材時代が本当に来るのか、見通しがなければ事業者は、原木増産のための担い手の新規雇用、再造林による次代への投資、大型設備投資などに踏み切りづらい。森林経営管理制度を運用する市町村の現場でも人材育成が課題となっている。
 一方、取り巻く環境が好転しているのも確かだ。県内では4月、四万十町に新たな大型木材加工拠点も完成した。官民が連携し、先を見据え、着実な前進を図っていきたい。
 きょうは「みどりの日」。森林県の将来にも思いを巡らせたい。

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