2022.04.28 08:20
71センチ。やっても~た! 武者泊で念願イシダイ 弘瀬伸洋―魚信 はっぴぃ魚ッチ
堂々たる71センチ。食べたら脂がすごかった
1人の底物師が、人生を懸けて釣れるかどうか―。
4月19日、そんなサイズのイシダイを釣り上げてしまった。
同じ店の理容師で、釣り仲間の福岡諒君(33)と2人、前日の18日から愛媛県愛南町の武者泊に乗り込んだ。
初日は名礁・アブセにて、なんとボウズ。2日目は船長の判断で名礁のヤッカン・ヒナダンからスタートし、私が50センチ弱を1匹、福岡君が自己記録の59センチを1匹釣った。
午後1時。前日に完封負けを喫したアブセに戻り、リベンジを期すことにした。先行者に状況を聞くと、「ダメやなぁ。餌も落ちん」。
しかし、私たちはあきらめない。魚がいないなら寄せるのみだ。秘策として、まき餌のイガイを10キロも用意していた。これを木づちで砕いては海にまく。
「さあ、寄ってこい」
少しして満ち潮が激流に変わり、まき餌の効果が出始めた。
傾斜する海底の中腹に餌と重りを引っ掛けるように置くと、しばらくして竿(さお)先がストンと沈む。魚が餌をくわえて、重りが転がり落ちる「棚落ち」。これを繰り返すうち、とうとうその時がやってきた。
「ファイトはソフトに」が私のスタイル
そこから先は無我夢中。大物とのファイトは相手の頭を左右にいなすのがこつだ。まともに引っ張り合えばバラシのリスクが高まる。
良型と確信していたが、水中に巨体が見えた瞬間に手が震えだした。大げさだが、私には水面全体が白銀に光ったように感じられたのだ。
「やばい、でかい!」
福岡君の絶叫を背に、息が止まるほどの緊張が走った。大型のイシダイは「銀ワサ」と呼ばれ、底物師を引きつける。まるで主(ぬし)の風格。巨体を翻して抵抗する重い感触が、ゴンゴン伝わってくる。
竿を曲げて弱らせようとする私。首を大きく振ってプレッシャーをかけてくる相手。攻防の末、フジツボがびっしり覆った水際に降りて、糸をつかむ。波のリズムに合わせ、黒紫の巨体をずり上げた瞬間、「やっても~た!」と叫んでいた。
71センチ、6・4キロ。この釣りを深めるほど70センチ超は難しいと感じていた。本心では、あきらめていたかもしれない。その魚が目の前に…。
渡船屋さん、先人たち、そしてこの海。全てに感謝のトロフィーサイズ。10日近くたった今も、余韻が収まらない。
やっても~た~。(理髪店「床屋」店主=高知市瀬戸1丁目)