2022.04.18 08:00
【敵基地攻撃能力】専守防衛と整合するのか
中国や北朝鮮の軍備増強に加え、ロシア軍のウクライナ侵攻が緊張を高め、抑止力の強化を模索させる。政府は年末までに「国家安全保障戦略」などを改定する方針で、保有を明記するかが焦点になっている。
敵基地攻撃能力の保有は、交戦権を否定した憲法9条に基づく「専守防衛」の理念を逸脱する恐れがある。拙速な対応は東アジアの軍拡競争につながりかねない。前のめりの対応で混迷を深めてしまわないよう、冷静な議論が必要だ。
歴代政権は、他に防衛手段がない場合に限り、誘導弾などの発射基地を攻撃することは自衛の範囲に含まれるとの見解を踏襲してきた。敵基地攻撃能力の保有は憲法上、容認されるとしつつ、政策判断として持たないとする立場だ。
日本の安全保障環境は厳しくなっている。昨年4月の日米首脳会談は、共同声明に「日本の防衛力強化への決意」を盛り込んでいる。
中国や北朝鮮のミサイル技術が進展し、現在の迎撃システムでは撃ち落とすことが困難になったと指摘される。このため、発射前に無力化することを想定する。
岸田文雄首相は、あらゆる選択肢を排除せず、現実的に対応する意向を示す。自民内には、攻撃目標は相手国の発射基地などに限定せず、指揮統制機能も含むべきだとの指摘が多いようだ。
自衛の概念が大きく変わることにつながるだけに、なし崩しは許されない。攻撃力の強化を抑止力とする狙いはあっても相手側の軍備をかえって増強させかねず、際限のない軍拡競争に陥りかねない。防衛費の膨張を懸念する意見や、技術的に非現実的との見方もある。
敵基地攻撃能力の保有が注目されたのは、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」が導入できなくなったことが一因だった。ずさんな対応の末に配備断念に追い込まれたのを受けて、新たな方策として急浮上した。ロシアの侵攻による緊張が、台湾情勢を絡めて保有への動きを後押しするが、保有ありきの議論ばかりが先行するようでは同じことを繰り返しかねない。
先制攻撃と混同されかねないとして、自民などから名称変更案も出ている。専守防衛の解釈や文言を変えるべきだとする声もあるようだ。
こうしたこと自体が、説明と議論の不足を示しているようにも見える。改称で世論の反発をかわそうとするのではなく、行為そのものと効果を論じることが重要となる。
ロシアの侵攻で、「核共有」政策を取り入れるよう求める意見も出ている。導入はかえって日本の安全を脅かすと指摘される。非核三原則に抵触し実現性には疑問符がつくが、不安の高まりを機に状況変更をうかがう姿勢はそもそも認められない。本質的な議論を重ねることだ。