2022.03.03 08:00
【一般教書演説】強い言葉が映し出す内憂
揺るぎない決意で、自由は常に専制政治に勝利すると表明する。独裁者に侵略の代償を払わせる。こうした厳しい言葉を連ねて、他国の主権を踏みにじる行為を糾弾した。
11月の中間選挙で審判を受ける政権は、支持率の低迷に直面している。経済や内政での成果を重ねなければ支持回復は望めない。対ロ政策の迫力にも関わりかねないだけに、今後の政権運営を注視する。
日米欧は、国際決済ネットワークからのロシア排除などの制裁を繰り出してきた。貿易や送金を阻害し、経済的な打撃を狙う。こうした措置を受けて、極東サハリンでの石油・天然ガス開発事業からの撤退表明など、ロシアでの事業を見直す動きが出ている。
制裁により、高値圏にある製油や天然ガス価格は一段の上昇が見込まれる。航空機に対する領空閉鎖で、物品の供給網のさらなる混乱が想定される。新型コロナウイルス禍で低迷した経済活動の回復に伴い、供給網が乱れた。米国でも物価の高騰へとつながり、生活を圧迫されることに不満がくすぶっている。
制裁が自国に跳ね返り、暮らしが一段と厳しくなれば、対ロ制裁の受け止めも批判的なものになりかねない。そうした事態を迎えないように、下支え策が不可欠だ。
ウクライナでは死傷者が増えている。停戦へ強硬かつ粘り強い取り組みが必要となる。バイデン氏は、軍事介入の可能性を早々に否定した。北大西洋条約機構(NATO)に属していないことなどが理由だろうが、その発言がロシアの軍事行動に影響したとの指摘がある。指導的立場にあるだけに、早期停戦に導く戦略も問われる。
世論調査は、バイデン氏不支持が支持を大きく上回る。中間選挙では、野党共和党が下院多数派を奪還するとの見方が強まっている。そうした中で、バイデン氏は選挙の鍵を握る中間層にアピールするために、ガソリンや処方薬の価格引き下げに意欲を示してきた。
演説では、自動車や半導体の米国内製造を増やすことで供給網を強靱(きょうじん)化する方針を示した。コストを下げることにも力を入れる意向で、それによりインフレに対抗するほか、気候変動や育児対策にも生かす。
ただ、政権の看板政策であり、人材育成や気候変動対策に取り組む大型歳出法案は、民主党内の対立で停滞している。国内の分断修復も進んだとは言い難い。互いを敵としてみるのはやめようという訴えは、道半ばの証明でもある。
内政、外交安保の課題と向き合う中で、対日要求が強まることが想定される。米国の意向に従うだけでは国際社会に貢献することにはならない。日本独自の取り組みを模索することが欠かせない。