2022.02.27 08:00
【強制不妊訴訟】国は上告断念し救済を
加害行為から20年を過ぎると賠償請求権が消滅する「除斥期間」を形式的に適用せず、原告が受けた人権侵害の実態を直視した司法判断と言えよう。国は差別的な政策を長年続けた責任を重く受け止め、上告を断念して高齢化した被害者の救済を急ぐべきだ。
1948年施行の旧法は優生思想に基づき、知的障害や遺伝性疾患を絶やすためとして身体拘束や麻酔のほか、説明せずに不妊手術を受けさせることも認めていた。
こうした障害者差別の条文は、母体保護法へと改正される96年まで削除されずに残っていた。国の統計などから確認できるだけで約2万5千人、本県でも173人が手術を受けたとみられる。
大阪高裁は一審の大阪地裁と同様に、旧法は「極めて非人道的、差別的だ」と断じた。その上で、「子を産み育てる意思決定の自由を侵害した」として、憲法が保障する「幸福追求権」や「法の下の平等」に違反すると認めた。
一連の訴訟では民法の除斥期間の規定が大きな壁となり、損害賠償が認められてこなかった。
大阪高裁はこの点、96年までは旧法で「差別的な烙印(らくいん)を押された状態」と指摘。さらにそれ以降も、差別で提訴の前提となる情報や相談機会への「アクセスが困難な環境」だったと認定した。
差別的な旧法が48年もの長期にわたり放置されたことは、法律という根拠を持って政府や国会が差別を助長してきたに等しい。
大阪高裁がこれらの状況から、除斥期間を規定通りに適用すれば「著しく正義、公平の理念に反する」と判断したのは妥当だろう。被害者の配偶者についても、本人への権利侵害と「不可分一体の関係にある」と賠償を認めた。
強制不妊手術の被害者に対しては一時金支給法が2019年に施行されたが、現状は「救済」にはほど遠い。今年1月末までに支給が決まったのは千人にも満たない。
一時金は320万円にすぎず、人間の尊厳を踏みにじられた被害実態にはとても見合わないだろう。支給は被害者本人に限られ、故人や配偶者が対象外というのも首をかしげざるを得ない。
そもそも法律にある非人道的な差別に対する「反省とおわび」も主体は「われわれ」で、責任の所在が曖昧になっている。被害者が納得できないのは当然だろう。
深刻な人権侵害は、立法段階はもちろん、問題を長年放置した政治に責任がある。被害者の高齢化も進んでいる。政府、国会とも司法の指摘を重く受け止め、抜本的な解決を急がなければならない。