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2022.02.14 11:35

【五輪コラム】両エース、500メートルで明暗 高木美は「銀」、小平は連覇逃す

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 スピードスケート女子500mで滑走する高木美帆=13日、北京(共同)

 日本のスピードスケート女子を引っ張ってきた2人のエースが500メートルで明暗を分けた。高木美帆が1500メートルに続く今大会2個目の銀メダルを獲得。一方、この種目で連覇を狙った小平奈緒は予想外の17位に沈んだ。五輪はともに2010年バンクーバー大会が初出場で、北京は高木が3度目、小平が4度目の大舞台だ。今大会では高木が計5種目に出場する過酷日程に挑み、35歳の小平は瞬発力が求められるスプリント種目で年齢の壁の突破を目指した。結果は異なったが、2人の真摯(しんし)な挑戦は、多くの日本女子選手に勇気を与えた。


 ▽「悔しい銀」と「うれしい銀」


 優勝候補の本命だった1500メートルで平昌大会に続いて2位に惜敗した高木は「また、勝てなかった」とうなだれていた。しかし500メートルで2位が決まると両手を上げてガッツポーズ。「正直、驚いているが、ベストを出せたことがうれしかった」。同じ銀でも、悔しいメダルの6日後に、今度は素直に喜べるメダルをつかんだ。


 専門外ともいえるこの種目ではワールドカップ(W杯)ポイントが低いため、出番は前半の第4組。最初の100メートルを10秒41の好ラップで飛び出し、得意のバックストレートから終盤は持ち味を生かして滑らかに加速。自己ベストの37秒12でゴールして後続に重圧をかけた。


 実力者がそろう後半の組からも、高木を上回る選手はなかなか出ない。ただ一人、今季のW杯4勝のエリン・ジャクソン(米国)が37秒04で高木を抜いた。100メートルの通過が全体2位の10秒33。残りの400メートルは高木、ジャクソンともに26秒71でカバーしており、100メートル通過の0秒08差が、そのままゴールでのタイム差となった。スプリンターと、オールラウンダーのわずかな差がメダルの色を分けたともいえる。


 ▽平昌後の苦境乗り越え


 3歳でスケートを始め、30年以上もリンクで戦ってきた小平には経年疲労があったのだろうか。北京五輪までの4年間は、国内外で負け知らずだった平昌五輪当時とは明らかに違った。500メートルでの連勝記録は2019年2月に「37」でストップした。その頃に股関節を故障し、一時は選手生命断念を考えるところまで追い込まれていたという。


 小平は、持ち前の粘り強さで故障からの機能回復を図った。新型コロナ禍による海外遠征休止中も、地道なリハビリと基礎トレーニングを重ねて、体の回復に努めたという。今季のW杯の500メートルは8戦して優勝が1回だけ。連戦連勝だったかつての圧倒的な強さは影を潜め、6位や8位に惨敗することもあった。


 第13組でのレースは、スタートから精彩を欠いた。100メートル通過は10秒72。36秒94の五輪記録で優勝した平昌では10秒26で飛び出していたから遅れは明らかだ。空気を切り裂くようだった鋭い腕の振りは見えず、カーブからの加速も伸びなかった。首位から1秒以上も遅い38秒09でのゴール。両手をひざに落として落胆を示した。


 「最初の1歩目で左足がちょっと引っかかって、その後、立て直せなくて、自分のスケートがどんどん遠くに離れていく感覚だった」と小平。その原因を追究するのは気の毒な気がする。


 ▽通算5個目のメダル、さらに挑戦続く


 小平はバンクーバー大会の団体追い抜きで銀、平昌大会での500メートル金、1000メートル銀。高木は平昌で金、銀、銅各1個を獲得。北京に入るまでの通算メダルは3個で並んでいた。高木はこれで銀2個を上積みし、冬季五輪の日本選手最多である通算メダル数を5個に伸ばした。


 高木にはこの後もチャンスがある。連覇を目指す団体追い抜きの準決勝、決勝が控え、1000メートルも表彰台を視野に入れる。団体追い抜きに万全で臨むため、500メートル回避も考えたそうだが、思い切っては出場して好結果を出し、勢いがついた。通算最多メダル数のさらなる更新が期待できる。


 傷心の小平にも1000メートルが残っている。大会組織委員会の情報ページで、小平の職業は「アスリート」と紹介されている。長野県松本市の医療法人(病院)に所属して資金面のサポートを受けながら、スケートに徹する事実上の「プロ選手」ともいえる。広告やイベントへの出演でも収入を得ている。31歳で最初の金メダルを獲得後も、さらなる高みを求めてきたプロ魂を、最後の種目で見たい。


 日本のスポーツ界を支えてきた企業チームが衰退している。小平は自立した形で競技生活を継続してきた。高木は職員として大学に残り、ナショナルチームの支援も得てスーパーアスリートへの道をまい進している。2人が限界に挑み続ける姿は、まだまだ制約の多い日本の女子スポーツに指針を示しているようにも見える。(共同通信・荻田則夫)

(c)KYODONEWS

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