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2022.02.11 17:52

【五輪コラム】新しい王者の誕生 平野歩夢、スノーボードHPで金

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 男子ハーフパイプ決勝で、エアを決める平野歩夢=2月11日、張家口(共同)

 これまで五輪に3度優勝し、この大会を最後に引退すると表明していたショーン・ホワイト(米国)は既に最終3度目の演技を終え、メディアのインタビューを受けているさなかではなかったのか。平野歩夢の逆転優勝が決まると、35歳のベテランは選手動線を逆走して現れ、まっすぐ12歳年下の宿敵に駆け寄って優しく抱きしめた。


 スノーボードの男子ハーフパイプ(HP)は、スリリングな試合展開の後、長年王座に君臨した勇者が新たに誕生した王者を心から祝福するという、心温まるシーンが待っていた。


 ▽文化の共有


 HPの面白さは、自由で個性的な表現を演じ、競うところにあるという。自分らしさを思う存分に発揮し、ユニークな技を生み出し、発表する。そこにはスノーボード文化の神髄がある。選手もファンもそう信じているからこそ、数あるスノーボード種目の中で特別に高い人気を誇っているのだろう。


 陸上の「横乗りボード」競技スケートボードも、この精神文化を共有する。平野は4歳のとき、まずスケートボードで遊び始めた選手だ。


 2大会連続の銀メダルとなった2018年平昌冬季五輪後、平野はスケートボードの技術を高めることに取り組み、20年に開催が予定されていた東京五輪への出場を目指した。競技のテクニックは違っても、精神文化は変わらないと信じ「自分を表現する」と言って、雪上からいったん離れた。


 ▽半年になってしまった準備


 新型コロナウイルスの感染拡大で、その夏季五輪の開催が1年延期となったことは、平野に少なからず動揺を与えたのではないかと想像した。当初の構想では、東京五輪後、雪上に戻り、1年半かけてHPの技を磨き、北京冬季五輪に臨むというものだった。それがパンデミック(世界的大流行)によって、準備期間はわずか半年になった。


 いくら幼少期から陸上と雪上、二つのボードで遊び、それぞれの感覚を体に染み込ませてきたとはいえ、HPで冬季五輪の優勝を目指すには、あまりにも時間が少ないように思えた。


 陸上のボードは足を固定せずに乗るから、足を固定する雪上のボードとは、感覚が異なるはずだ。さらに一般的には五輪は4年前の前回大会より、一歩進化した選手となっていなければ勝てないといわれる。


 しかし、平野はそうした不安の声を少なくとも公式には表さなかった。それどころか、滑走の着地直後のバランスを整える感覚をこれまで以上に研ぎ澄ますことができたという点で「陸上のボードはとても有益だった」とさえ、インタビューで語っていた。平野は前向きな考え方をする選手なのだろう。


 ▽絶対的な自信あったかも


 いや、ひょっとすると、雪上のボードには絶対的な自信を持っていて、半年の準備期間で十分に戦えるレベルに到達できると、心の底で思っていたのかもしれない。


 平野はこの種目では身体的に優位なところがある。小柄であることのアドバンテージをフルに生かし、空中で体をすっとかがめれば、腕を大きく動かすことなく容易にボードを握る「グラブ」という技を演じることができる。


 勢いよくパイプから空に飛びだせば、軽い体は高く舞い上がる。これだけ高く体を浮かせることができれば、多くの回転数を生み出す上で、大柄な選手より有利だ。また、いうまでもなく、高さはそのまま得点に直結する。


 平野は縦2回転、横4回転の「ダブルコーク1440」を武器に戦った4年前に戻るのではなく、一歩先の「トリプルコーク1440」、縦に3回転、横に4回転する難しい技を整備し、ただ1人実践した。最終3回目に96・00点を出して逆転。金メダルに輝いた。(共同通信・竹内浩)

(c)KYODONEWS

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