アルペンスキーの男子滑降で銀メダルを獲得したヨアン・クラレイ（左）。中央は金メダルを獲得したスイスのベアト・フォイツ（中央）＝２０２２年２月７日、延慶（ＡＰ＝共同）

　金メダリストは３４歳で、銀メダルが４１歳、銅メダルは３１歳―。７日に行われたアルペンスキーの最初のレース、男子滑降は“オールドパワー”が席巻した。表彰台は締めて１０６歳。メダリストの合計年齢が五輪のアルペン史上最も高齢のレースとなった。滑り出しは話題性十分だった。

　▽最速ラインを読む

　英語で「ロック」の愛称がついたコース。岩の間を切り開いたようなごつごつしたイメージの全長３１５２メートル、標高差８９４メートルの滑降コースは全面的に人工雪で覆われ、氷の部分があったり、エッジが変に引っかかったり、バランスを崩すと大けがの危険性大。その難コースをベアト・フォイツ（スイス）が攻略した。

　フォイツをはじめ、表彰台に立ったベテラ勢ンが活躍できる理由は、滑降の特性にある。旗門の設定で必然的にコースが定まる回転などと違い、旗門の間隔が平均７０～８０メートルもある滑降は、コース取りがかなり自由だ。その分、最速ラインを「読む」目が求められる。平均スピードが時速１１０キロにもなる中、経験を積み重ねることで身に付く技でもある。

　フォイツはわざとコース取りを膨らませてスピードを落とさない技術を見せた。コース上部のテクニカルなパートはやや抑え気味に入り、下部の高速部分は愛称の「キャノンボール（弾丸）」の名のままにすっ飛ばした。前回、平昌大会で獲得したスーパー大回転での銀、滑降での銅にこの金を加え、五輪のメダルコレクションが完成した。たびたび膝など脚の大けがに見舞われてきた苦労人は「金メダルを首に下げて早く家に帰りたい」と喜んだ。

　▽初の４０代メダリスト

　２位のヨアン・クラレイ（フランス）はフォイツに０秒１０及ばなかったが、４１歳２９日でのメダル獲得は五輪アルペン史上最年長となった。２０１４年ソチ大会男子スーパー大回転３位のボード・ミラー（米国）の３６歳を大幅に上回った。「自分のキャリアで五輪メダルを取る機会は、まだワンチャンス残っていると信じていた。２０歳だろうが４１歳だろうが、そんなこと関係ない」と息巻いた。

　最年長記録のレコードホルダーである。１９年の世界選手権のスーパー大回転で２位となり、最年長（３８歳２９日）メダリストになった。ワールドカップ（Ｗ杯）でも昨年１月のキッツビューエル（オーストリア）で、伝統の滑降コースでフォイツに次いで２位に入り、史上初めて４０歳代での表彰台を手に入れた。これで自信が膨らみ、北京へつながったという。

　「３５歳のころからそろそろ引退の潮時かな、と思い始めていた。でも自分に言い聞かせたんだ。『１年、１年』だって。いい選択だった。世界選手権のメダル、そして五輪メダルだ。６年前のチョイスは間違ってなかった」と喜びを爆発させた。

　▽マイヤーは３大会連続金メダル

　銅メダルだったマティアス・マイヤー（オーストリア）は、翌日のスーパー大回転で２連覇を達成した。２位のライアン・コクラン（米国）とわずか０秒０４差。薄氷の勝利だったが、これで１４年ソチ大会の滑降を加えて３大会連続の金メダル獲得の偉業となった。本人はスーパー大回転のあと「歴史のことなど考えなかった。すごく大変なレースだった」と感想を述べた。とはいえ、前日の滑降で既に銅メダルを得ており、気分的にリラックスしていたのは間違いない。チームメートは「前夜はビール２本飲んでリラックスしていたよ。彼は賢い。これが大舞台では必要なんだろう」と評した。

　マイヤーはスキー大国、オーストリアでも有名な親子選手。父のヘルムートは１９８８年カルガリー大会のスーパー大回転で銀、８９年世界選手権と８４年のジュニア世界選手権の大回転でも銀メダルの「シルバーコレクター」だが、「五輪の滑降金メダルはスーパー大回転の銀とは比べものにならない。オーストリアでは滑降の勝者こそより高く評価されるからだ」と息子を見やっていた。

　マイヤーを追い詰めたコクランは７２年札幌大会で、スイスのマリテレーゼ・ナディヒの３冠獲得を阻んだ回転の女王、バーバラ・コクランの息子。米国スキー界で有名なアルペン一家で、ファミリー６人目の五輪選手だという。１年前に首を痛めて手術していたが、母に次ぐメダル獲得を成し遂げた。（共同通信・小沢剛）