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2022.02.08 18:16

【五輪コラム】羽生にも五輪の魔物 4回転新時代のフィギュア男子

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 男子SPで冒頭のジャンプに失敗する羽生結弦=2月8日、北京(共同)

 五輪には魔物がすむ、という。羽生結弦(ANA)がそのわなにかかった。フィギュアスケート男子ショートプログラム(SP)で羽生は最初の4回転ジャンプに失敗し、予期せぬ8位のスタート。1位のネーサン・チェン(米国)とは18点以上の大差がつき、五輪3連覇は大ピンチとなった。4回転ジャンプの進化がとまらないハイレベルの戦いでは、ひとつのミスが致命傷となる厳しさが浮き彫りとなった。


 ▽女神に嫌われたか、リンクに穴


 羽生は高ぶりも見せず、落ち着いた表情で演技を開始した。第一人者の自信にあふれて最初のジャンプに入った瞬間、舞台は暗転した。4回転サルコーの踏み切りがきかず、回転できずにフワリと着地。踏み切り足がリンクについたエッジ跡に入ってしまった。「踏み切る直前に、ほかのスケーターの穴が存在した。その穴にはまった」と羽生は説明した。


 羽生の4回転サルコーは安定し、信頼していたジャンプのひとつだ。難度は4回転5種類のなかで下から2番目だが、羽生はいつも高い出来栄え点(GOE)を加えて高得点を稼いでいた。昨年末の全日本選手権ではこのジャンプで14・27点を記録した。しかし北京での不運の代償は大きく、失敗ジャンプは必須要素を満たせずに0点の判定。仮に、通常通り14点前後を上げていれば、羽生は金メダルを狙える位置につけていたはずだ。


「自分ではミスだと思っていない。ちょっと嫌われちゃったかな」と羽生。連覇を果たしたソチ、平昌両大会ではほほ笑みかけていた五輪の女神が、ついに羽生を見放したのか。


 ▽フリーはGOEが勝負を決する


 チェン、鍵山優真(オリエンタルバイオ・星槎)、宇野昌磨(トヨタ自動車)のSP上位3人はそれぞれ自己ベストを更新した。3人のジャンプ構成はいずれも4回転、4回転のコンビネーション、3回転半(アクセル)の3種類だが、より難度の高いルッツとフリップを組み込んだチェンが、GOEも稼いで世界最高得点で抜け出した。


 メダルを決めるフリー演技は、高難度の4回転の組み合わせに加え、各要素に加点されるGOEがカギを握りそうだ。2位鍵山、3位宇野までは、ひとつのジャンプの成否で逆転可能な射程圏にいる。


 最も高い基礎点を持つのはチェンになる。トーループ(基礎点9・50)サルコー(9.70)ループ(10・50)フリップ(11・00)ルッツ(11・50)の5種類すべての4回転ジャンプをものにしており、コンビネーションも交えて計5本跳ぶ予定だ。それぞれに高いGOEがつけば、ほかの誰も追いつけない。


 しかし前回平昌五輪のSPでチェンが大失敗したように、難度の高いジャンプはいったんリズムを失うと負の連鎖が伴いがちだ。GOEは最高で5点が追加されるが、転倒や両足着氷があれば3~5点をマイナスされることもある。プラス評価とマイナス評価は、ひとつのジャンプだけで最大10点近くの差になる。ルッツやフリップの基礎点が高いジャンプでも、ミスをすれば失点が大きくなる。


 チェンに続く4回転の跳び手が宇野だ。ルッツを除く4種類のジャンプを、コンビネーションも交えて計5本跳ぶ。今季はそれぞれのジャンプでGOEもつくようになった。鍵山はループを習得して3種類になり、計4本を演技に加える。各ジャンプの習熟度が高く、加点が大きいのが特徴だ。団体のフリーではノーミスの滑りで200点を大きく超える自己ベストを記録。滑るたびに得点を更新しており、大舞台の勝負強さも頼もしい。


 ▽王者の自負で挑む4回転半


 羽生の奇跡の逆転優勝は、数字上では消えた訳ではない。その条件は羽生がフリーで自己ベストに近い210点以上をたたき出し、チェンが大崩れし、鍵山と宇野の得点も190点前後に抑えられた場合だ。しかし上位3人がそろって低調に終わることは想定しづらい。羽生には見る者の胸を打つ最高の滑りを期待したい。


 羽生には北京に用意してきた大技がある。これまで誰も成功したことのないクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)だ。もともとは、打倒チェンを果たして3連覇をつかみ取るために準備してきたものだ。「平昌では自分がノーミスなら100パーセント勝てる自信があったが、今回は自分がノーミスでも勝てないかもしれない。勝つために4回転アクセルに挑む」。大会前にそう話していた。


 4回転アクセルは基礎点が12・50。成功しても普通の4回転より基礎点で1・00~3.00点高いだけだ。失敗する危険性が高く、サルコーやループなどの4回転にGOEを加えた方が高得点を得られる計算も成り立つ。


 SPで失速した羽生は、リスクを冒す覚悟をさらに固めるはずだ。五輪で歴史を刻んできた自負を持ってフィギュアスケートの新たな扉を開きにいく。勝っても、負けても「氷上の王者」らしく、滑り切ってほしい。(共同通信・荻田則夫)

(c)KYODONEWS

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