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2022.02.07 11:15

【五輪コラム】自分らしさを表現すること 「平野歩夢の独創性」

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 スノーボードW杯の男子ハーフパイプ今季最終戦で優勝した平野歩夢=2022年1月15日、ラークス(共同)

 雪の斜面の下から、空に向かってパイプのエッジを越え、高く飛び出していく。そのスピードに息をのむ。こんなにも高く飛び上がるのか。跳躍というより、飛行という感じだ。


 あれっ、今、空中でいったい何回転したのだろう。縦にも横にも回転していた。回転が速すぎて、体をどのように操ったのか、遠くから肉眼では確認できない。


 4年前の平昌冬季五輪。スノーボードの男子ハーフパイプ決勝で、既に過去2度、金メダルを獲得していた米国の人気者、ショーン・ホワイトと平野歩夢(TOKIOインカラミ)は激戦を演じた。パイプの底に詰めかけた観衆は、その小柄な日本選手の軽やかな身のこなしにすっかり魅了されたのか、自分たちの目の前に滑り降りてくるまで、声援を送ることを忘れたように静かだった。


 いや、ひょっとすると魅了されたのは私自身で、周囲の音と声が耳に入らなかったのかもしれない。


 ▽ダブルコーク1440


 平野が決めた大技は、空中で体の軸をずらしながら縦に2回転、横に4回転する「ダブルコーク1440」だった。技はきれいに決まった。これほどまでに難易度の高い技を習得するのに、一体どれほどの時間を研究と練習に費やしたのだろう。


 そんなことを考えているうちに、ホワイトが滑り始めた。平野と同じ技をダイナミックに決め、わずかの差で競り勝った。


 王者の3度目の優勝に、米国からやってきた大観衆は熱狂し、歓声を響かせた。これほどまでの大騒ぎは五輪の競技会場でも珍しい。スノーボードがいかに米国の若者の心をつかみ、彼らが自分たちの英雄を大切に思っているか、目の当たりにした思いだった。


 ▽雪上からスケボーへ


 15歳で出場したソチ五輪に続き、平昌で2度目の銀メダルを獲得した平野は、ここでかじを切る。2年半後(新型コロナウイルス感染拡大による延期で実際には3年半後)に迫っていた東京夏季五輪でのスケートボード出場を目指し、本格的な雪上の競技生活をいったん離れることを決断する。


 スケートボードは4歳のときから親しんできた。10歳を過ぎたあたりからスノーボードの比重が増し、やがてハーフパイプに専念することになったが、ハーフパイプの新しい技を研究し、身に着けるために、スケートボードで動作を確認するようにしていたという。


 スケートボードのパーク種目で、日本選手最高の世界ランキングを獲得し、男子ではただ一人、自国開催の五輪で出場権を獲得した。予選で敗退したが「夏季五輪に出場すること自体が、僕にとって大きな表現だった」と語った。


 ▽楽しさにあふれる


 自分自身をどのように表現するか。スノーボードでも、スケートボードでも平野はそのことを常に考え、納得できる技を作り出し、演技全体の中に織り込んでいくようだ。強い選手を打ち負かすための技を技術的に研究するのではなく、まず何よりも自分らしさを表現する上で最適だと思う技を磨き、競技会でそれを発表する。発表の仕方がうまくいったとき、結果として好成績になる。それが競技に向き合う平野の姿勢だ。


 平野が追い求める独創性は次元が高い。つまりとても難しい技だ。その表現が競技会で決まれば、自分らしい「格好良さ」は観衆に「格好いい」とそのまま受け止められる。「えっ、そこまでやっちゃうんだ」「うわ、そんな技、どこから思いついたの」と。


 技には遊び心がある。楽しさにあふれている。それが雪のパイプでも、室内あるいは公園の一角に整備されるパークでも、「横乗り」競技と言われるボードを使うスポーツの文化の特長だという。ならば、平野は異端ではなく主流派か。


 平野は4シーズンぶりに出場した今季のハーフパイプのワールドカップ(W杯)で3戦2勝。ライバルたちは、ダブルコークのさらに上をいく縦3回転、横4回転の大技「トリプルコーク1440」に目を丸くした。


 北京冬季五輪では9日に予選、11日に決勝が行われる。テレビとインターネットを通じて視聴する世界のスノーボードファンは、その時代を先取りする技に「ワオ!」と歓声を上げるだろうか。(共同通信・竹内浩)

(c)KYODONEWS

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