2022.01.08 08:00
【日米2プラス2】交錯する前のめりと配慮
岸田文雄首相は、外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」、防衛計画の大綱など3文書の改定を掲げている。これに関し、弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する敵基地攻撃能力の保有を含め、あらゆる選択肢を排除せずに検討する意向を示してきた。
共同文書には、敵基地攻撃能力保有の是非検討を念頭に、「日本は国家防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する」との考えを明記した。岸田政権の対米公約と位置付けられる。
中国や北朝鮮が極超音速ミサイルなどの開発を進めていることに警戒感は高まる。今回の2プラス2の前にも、北朝鮮は国連安全保障理事会決議が禁じる弾道ミサイル発射を行った。日米両政府は最新兵器に対抗するため、防衛装備品の共同研究協定に署名した。
敵基地攻撃能力の保有について、現在の迎撃システムではミサイルを撃ち落とせないとして、発射前に無力化することに前向きな見方がある。一方、技術的に非現実的との意見や、憲法違反の先制攻撃に当たるとして反対や慎重姿勢も根強い。軍拡競争など保有がもたらす影響も懸念される。専守防衛の議論は決して深まってはいない。
確かに、抑止力を高めるにはあらゆる選択肢の検討が必要だろう。しかし、敵基地攻撃能力の保有に前のめりになるあまり、多方面にわたる課題を狭め、検討を簡素化するようなことがあってはならない。
思い浮かぶのは地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」導入計画だ。ずさんな対応から配備断念へと追い込まれた。それがミサイル阻止の方策として敵基地攻撃能力の保有議論を本格化させる要因となったことを認識する必要がある。
共同文書は台湾情勢について、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、昨年4月の日米首脳会談と同様に「平和的解決を促す」とした。経済への影響を抑えるためにも外交努力が必要なのは言うまでもない。
日米は2022年度から5年間の在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)に関する特別協定にも署名した。総額1兆円超と見積もり、単年度当たりでは21年度より100億円多い。新たに共同訓練に使う最新システム調達などに充てる。
自衛隊と米軍の連携強化が必要にしても、負担が膨らむことへの説明が足りているとは思えない。政府は思いやり予算から「同盟強靱(きょうじん)化予算」と呼び変えるようだが、過剰な配慮という印象を打ち消すには国民の理解が必要だ。
在日米軍施設で発生した新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)問題も、安全保障で頼みとする米軍への配慮がにじむ。日本の主体的な対応が欠かせない。