2024年 04月28日(日)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2021.09.30 08:32

大地と生きる ジオパークのまちづくり(1)「世界の室戸」10年(上)「何もない」市の誇りに

SHARE

防災学習で室戸世界ジオパークセンターを訪れた子どもたち。床の地図は眼鏡を通すと立体的に見える(室戸市室戸岬町)

防災学習で室戸世界ジオパークセンターを訪れた子どもたち。床の地図は眼鏡を通すと立体的に見える(室戸市室戸岬町)


 「今立っている場所は、10万年前は海底でした。あの山のてっぺんまで海の中」。室戸市の室戸岬。太平洋を望む岩場で「市観光ガイドの会」の女性(66)が愉快そうに語る。

 かつて、ともすれば市民が「なんちゃあない」と自嘲した海岸。景勝地以上の価値を鮮明にした肩書が「世界ジオパーク」だ。貴重な地質資源の保全と地域振興を目的に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が認定する。

■特徴「突出」
 室戸ジオパークは2008年、「世界」の前段となる日本ジオパークに国内で初めて認定された。その後の候補地選定では2度落選したが、11年9月に悲願の世界認定を得た。

 世界ジオパークは現在、44カ国169地域。国内は9地域で、四国では室戸のみだ。

 貴重な地質は室戸岬に限らない。行当岬(元)では砂や泥が深海で堆積してできた「タービダイト層」、西山台地(吉良川町)などでは南海地震による隆起や海水面の変動でできた「海成段丘」を見られる。

 室戸ジオパーク推進協議会の柿崎喜宏・地質専門員(39)は、室戸岬周辺の山について「13万年で海面から200メートル近く上がっている。その速度は世界有数で、室戸の突出した特徴」などと解説する。

■見どころ拡充
 同協議会は世界認定時、こうした地質や地形の見どころとして22の「ジオサイト」を選定。市民ガイドの養成やツアー開発も進んだ。15年には室戸世界ジオパークセンターがオープンし、新たな観光の入り口に。防災学習の拠点ともなり、遠足などを通じて多くの子どもらが大地の成り立ちや地震の仕組みを学んでいる。

 もっとも、ジオパークは地質だけを資源とするわけではない。NPO法人「日本ジオパークネットワーク」は「生息する動植物や産業、文化などもジオパークの構成要素」とする。

 同協議会は18年、見どころを広い視野で見直し。「ジオサイト」に加えて、天然杉群やコウモリ生息地など生態系に関する「エコサイト」、神祭が特徴的な御田八幡宮など文化や歴史に関する「カルチュラルサイト」を設け、全78サイトに改めた。

 こうした磨き上げもあって、室戸ジオパークは15年、19年と4年に1度の認定継続審査を通過した。とりわけ評価されてきたのは、ガイドの活躍をはじめとする市民の熱意だ。同協議会もまた、課題解消に向けた意見を募る「ジオばた会議」を開くなど、住民参加を活動の肝にしてきた。

 市役所で長年ジオパーク推進に携わった和田庫治総務課長(60)は「『室戸はなんちゃあない』が市民の口癖のようだったが、認定後は若者が『ジオパークがある』と誇らしげに語りだした。涙が出るくらいうれしかった」と話す。

 誇りある室戸の大地。その価値を高め内外に示す若い力は、同市唯一の高校で続々と育っている。(室戸支局・板垣篤志)

 ◇ 

 「室戸」の世界ジオパーク認定から10年を迎えた今月、折しも「土佐清水」が県内2例目の日本ジオパークに認定された。両地域の道のりを振り返り、ジオパークを生かしたまちづくりの課題、展望を探る。まずは世界の室戸から。

高知のニュース 室戸市 観光 ジオパーク

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月