2021.07.29 08:42
明徳・代木、気迫のマウンド 高知・森木「やりきった」全国高校野球選手権・高知大会決勝
4回裏を三者凡退で終わらせ、雄たけびを上げる明徳のエース代木(春野球場=佐藤邦昭撮影)
高知の打者を打ち取るたび、明徳先発・代木はほえまくった。疲れを感じていようが、気力、気迫で投げ込んだ。「最後まで投げきる」。エースのプライドがほとばしる投球だった。
準決勝で四回途中にノックアウトされてから中1日。苦境から見事に立ち直った。この日は威力ある直球、打者の手元で鋭く曲がるカットボール、緩いカーブとチェンジアップを内外角へ投げ分けた。対策を積んできた高知打線を七回まで1安打無失点に抑え、終盤まではほぼ完璧だった。
味方が3点を勝ち越した最終回。先頭打者に安打された代木を見て、馬淵監督が交代を告げようとした。だが、代木がそれを制する。「3年間頑張ってきた。ここで代わったら何のために明徳に来たのか、と。勝つ時は絶対に自分がマウンドにいる、と決めていた」
馬淵監督も「必死に練習する姿を見てきてるから。あいつに最後まで任せる」と腹をくくった。左手の中指がつるなど体力は限界を超えている。ならば精神力で。中軸2人をゴロに仕留め、最後の打者を中飛に打ち取ると、涙を流し何度も何度も両拳を突き上げた。
激闘を制し、森木から託されたのは「甲子園で優勝してくれ」の言葉。「森木君がいてくれたから僕も成長できた」と代木。この1年名勝負を演じてきたライバルの思いも背負い、再び大舞台へ向かう。(谷川剛章)
9回途中まで力投した高知のエース森木(春野球場=佐藤邦昭撮影)
ついに甲子園には届かなかった。全国から注目を浴びた高知の森木。試合終了と同時に、しばらくグラウンドに突っ伏した。悔しさはあったが、「やりきりました」と語った右腕。全力を尽くした夏が終わった。
この日の最速は151キロ。自慢の速球に加えて「カーブもスライダーも、他にもいろいろ投げた」。この3年間、磨いてきた投球を表現した。味方のエラーも絡んで2点を失ったが、八回まで10個の三振を奪う力投だった。
ただ、炎天下で確実に体力は奪われた。味方が同点に追い付き「絶対に点をやらない」と誓った九回。1球目で死球を与えると、次打者に連続暴投。「自分でもよく分からないけど、右手に力が入らなかった」。体が言うことを聞かなかった。
中学時代に軟式球で150キロを出し、高1の春からマウンドを任された。注目を集める一方で成果を残せず、いろんな声も聞こえた。「メンタルは弱い方」と吐露したこともある。
ただ苦しい時期を過ごし、自身にも変化はあった。「1、2年生の時は自分のことしか考えていなかった。けど、一緒に泣いたり、笑ったりする仲間が一番大切だと気付いた」
仲間を信じ、完璧でないといけない自分を捨てた。「僕だってまだまだ弱点はある」と弱さも隠さぬようになった。涙に暮れる試合後の高知ベンチには、仲間の背中をたたく森木の姿があった。
「甲子園が全てではない。最後までみんなで諦めず戦った経験を、これからの原動力にしたい」
森木が高校で強くしたのは、直球よりも仲間との絆だったのかもしれない。(仙頭達也)