2024年 04月28日(日)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2021.09.04 08:00

【菅首相が辞意】説明と理解置き去りの末

SHARE

菅義偉首相が、自民党総裁選に出馬せず、辞任する意向を表明した。新型コロナウイルス感染防止に専念したいと述べた。コロナ感染が猛威を振るい、コロナ対策が重要課題であることは間違いなく、そのこと自体は分からないではない。
 しかし、それは就任前からの課題であり、国民の命と暮らしを守ると繰り返してきたはずだ。総裁選と両立はできないほどのエネルギーが必要なのはその通りだろうが、今更コロナ専念と言われても説得力があるようには思えない。
 そもそも、後手に回る政府の対応には批判が根強い。コロナの緊急事態宣言、まん延防止等重点措置は、対象地域の拡大と期間延長を繰り返してきた。国民生活は多大な影響を受ける。医療は逼迫(ひっぱく)して、在宅療養者の死亡も起きている。
 東京五輪の開催には、専門家から感染拡大への警告が発せられた。ほとんど無観客で行われたが、気の緩みにつながったとの見方は多い。対策の柱とするワクチン接種にも批判が絶えない。
 科学的な知見を政策に反映して、経済対策との両立をいかに目指していくか。国民に説明して理解を求めようとする姿勢は乏しい。説得力ある言葉が届かないようでは、人流を抑制することは難しい。自粛疲れも言われるが、政策への信頼が高まらなければ効果は期待できない。
 首相は、官房長官として支えた安倍晋三前首相が体調不良で突然の辞任表明をした後の総裁選を制した。首相として安倍政権の「継承と前進」を打ち出す。問われたのは説明責任との向き合い方だ。
 この1年でも「政治とカネ」の問題での議員辞職が相次いだが、当事者が説明責任を果たしたとは言い難い。参院広島選挙区での買収事件に絡む自民党資金も疑問が解明されていない。「桜を見る会」前日の夕食会を巡る問題も混乱を終わらせようとする姿勢がうかがえない。
 総務省幹部の接待問題は、政官業の癒着を浮き上がらせた。放送事業会社に勤める首相の息子も関わっている。首相への忖度(そんたく)が行政をゆがめていないか疑われた。NTTからの接待攻勢も明らかになった。
 国会審議には消極的で、はぐらかしの答弁も目立った。臨時国会召集の要求は拒否している。日本学術会議会員の任命拒否問題では、個別の人事は答えられないと、詳細な説明をしていない。
 首相の地元の横浜市長選で敗北したことで、次期衆院選をにらむ党内中堅・若手議員の危機意識が強まったようだ。前回総裁選では各派閥が雪崩を打って支持したが、今回はその流れがつくれなかった。
 菅政権は「国民のために働く内閣」を掲げた。そのためには、国民との対話が基本のはずだ。自民党総裁選は、菅政権が説明と理解をないがしろにして失った信頼を回復する契機としなければなるまい。
 野党も、菅政権を追い詰めたと胸を張れるだろうか。埋没していないか自省の必要がある。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月