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2021.06.17 08:00

【東芝株主総会】企業統治重視に逆行する

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 東芝の迷走が止まらない。また経営の混乱ぶりを露呈した。
 外部弁護士による調査報告書で、昨年7月の定時株主総会を「公正に運営されたとは言えない」と断じられた。経済産業省と一体となり「物言う株主」の株主提案権や議決権の行使を妨げたとする。
 企業の最高意思決定機関である総会で株主の声を封じる対応は、企業統治を重視する流れに逆行しよう。経産省も株主に圧力をかけたのが事実なら、法律を運用する公正さが問われる。両者とも真相を究明し、説明する責任がある。
 調査は、定時総会で社外取締役の選任案を退けられた筆頭株主の投資ファンドが、今年3月の臨時総会で提案した。経産省関係者が一部株主に議決権を行使させないよう圧力をかけた疑惑がきっかけで、株主側が選んだ弁護士が担当した。
 報告書によると、東芝は権利行使に積極的な株主との関係に苦慮。昨年4月ごろから株主提案を阻止しようと経産省と接触した。両者を結びつけたポイントが外為法である。
 外為法は、防衛や原子力といった安全保障に関わる分野で技術流出を防ぐため外国人投資家の出資を制限する。昨年5月の改正で一段と厳格化された。原発や半導体を手掛ける東芝は、政府が安全保障を理由に海外株主へ東芝株売却を命令できないかを働き掛けたという。
 経産省幹部が東芝側と情報交換しながら、投資ファンドに繰り返し接触。外為法に基づく取り締まり権限の発動を示唆し、株主提案の取り下げを求めたとされる。
 当事者は否定するものの、車谷暢昭前社長が在任中、一連の経緯を当時の菅義偉官房長官に説明したと推認されるとも指摘している。
 報告書の指摘を受け、東芝は関与を疑われた社外取締役ら4人を退任させるよう、今年の定時株主総会に諮る役員候補者などを変更した。総会直前の退任発表は極めて異例だ。報告書に追い詰められた対応にほかなるまい。
 東芝は社外取締役を多く登用し、強い権限で経営を監督する委員会設置会社だ。その狙いとは裏腹に2015年の不正会計問題以降、企業統治や法令順守の姿勢が問われる事態が相次いでいる。永山治取締役会議長は会見で車谷前社長の責任を強調したが、問われているのは企業体質だ。人ごとのような認識では自浄作用は発揮できないだろう。
 一方、梶山弘志経産相は「政策として当然」と東芝への関与を正当化した。確かに外為法に基づく調査で個別企業に接触するケースはあり得る。それでも圧力と受け取られる行為が事実とすれば、法律の恣意(しい)的な運用が疑われる。
 梶山氏は独自調査を否定したが、報告書を「事実関係に疑問を持たざるを得ない」と突っぱねるなら、自らその根拠を示すべきだろう。経済安全保障の重要さが増しているとはいえ、外為法運用の公正さや透明性が疑われる状況は、海外投資家の日本離れにもつながりかねない。

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