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2007.05.28 08:00

『本城直季 おもちゃな高知』やまんば様の洞穴は

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高岡郡津野町の「葉山風力発電所」


 丁寧に積まれた石垣。何段も重なった田の水が、青空を映している。小さな苗がふわり、風に揺れる。
 
 高岡郡津野町(旧葉山村)の黒川地区。ぐるりを緑に囲まれた、静かな山間の集落。地元で「北山」と呼ぶ背後の山の尾根には今、巨大風車が立ち並ぶ。
 
 道端のコンクリートブロックに、げんさん(77)が、ゆっくり腰を下ろした。
 
 胸に建設会社の名が入った作業着。使い込まれた黒いベルトで、ズボンにしわが寄るほど、きゅっと締めている。
 
 ゆっくり首を回し、西の山影をあごで指す。「あの空を」。顔の向きを戻し、一呼吸置いて続ける。「雲が南へ走るときは、3日ばあ雨は降らん」
 
 幼いころ。地区内には、まだ多くのかやぶき家が並んでいた。
 
 空を見て、天気を読み、毎年、誰かの家の屋根をふき替えた。集落総出で、1日がかり。カヤは、北山の「とっと空から」取ってきた。
 
 「沖風がえらいきね。空は大木が、えー生えん。そんでカヤが生えたがじゃろう。秋ごろのとうが立った、カヤがえいがじゃ。腐らんかった」
 
 刈り取ったカヤは、男衆が肩に担って下りた。「そこの家におったカネさんは、いっぺんに30何貫(約110キロ)運んだいうぜ。1番多い人は自慢よね」
 
 戦前、集落には電気が通っていなかった。頼りは「かんちょろ(ランプ)」で、夜は「年寄りの話を聞いて、明かした」。話には多くの妖怪が出てきて、かっ歩していた。「やまんば様」もいた。
 
 貧しい中、年に1度、同じ日にもちをつく家があった。ある年、ぼろの着物姿のおばあさんが、どこからか現れ、もちつきを手伝った。お礼にもちを手渡すと喜び、「つく日を変えたらいかん」と言い、去った。家に幸せが訪れるようになった。翌年もおばあさんが手伝いに来た。同じ事を言い、去った。豊かな暮らしができるようになった。
 
 だが、ある年。豊かになった家は、もちを惜しんだか、日を変え、早めについた。いつも通り、手伝いに来たおばあさんは、話を聞いて怒った。
 
 家人がおばあさんの行方を見ていると、汚れた着物はギンシャラ、ギンシャラと光り始め、やがて山の空にある洞穴へ入っていった。次の年、おばあさんは姿を現さず、家は没落した―。
 
 「200年ばあ前に、実際にあったことじゃけ」。げんさんがうん、うん、とうなずく。やまんばの洞穴は、風車に向かう道を、途中ではずれた先にある。
 
 「今は、まことにする人はおらんけどね。今の人は信じんき、化けもんは消えてしもうたね」
 
 陽(ひ)が傾き始め、山影が濃くなった。風が吹き続けている。風車を見た帰りだろうか。数台の車が立て続けに、山を下りていった。土地の記憶を語り終えたげんさんが、ゆっくり立ち上がる。「ラッシュになるで。気を付けて帰りよ」。そう言って、自宅への坂道を、そろそろと上り始めた。沖風が巨大な風車を、勢いよく回している。洞穴のやまんば様にも、風は届いているだろうか。(吉良憲彦)

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