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2019.11.21 08:20

【地震新聞】中山間の防災と復興考える 大豊町で中越地震被災者が講演

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中山間地域の震災復興を考える講演会で話す植本琴美さん=右=と桑原勝利さん (大豊町大滝の東豊永地区公民館)

長岡市の桑原さん「道路落ち 橋は渡れない」
 高知県内の南海トラフ地震対策は沿岸部で津波への備えが進む一方、中山間地域では土砂災害などへの不安が軽減されない。多くの集落孤立が予想され、支援が遅れる懸念がある中、どう命をつなぎ、どう復興していくか。新潟県中越地震の被災者らを招き長岡郡大豊町で開かれた講演会から、山の防災のヒントを探った。

 新潟県小国町(現在の長岡市)で被災した桑原勝利さん(54)が体験談を語った。講演要旨は次の通り。

 私が住んでいる地域は冬に4メートルの雪が積もる豪雪地帯だが、治水など風水害対策が進んでいて、雪さえなければ最高の天地だと思っていました。ただ、そんな思いは2004年10月23日を境に変わってしまった。

 午後5時56分、ちょうど出掛けようとしていた時、ドンと突き上げられるような揺れで体が浮き上がりました。

 私の両親が生後11カ月の子どもにおいかぶさり、私は茶だんすを押さえました。しかし、横揺れがひどく、すぐたんすから離れて家の外へ出ました。

 90歳のおばあちゃんは「私はもういいから早く子を連れて外へ出れ」と。子どもから順におばあちゃんも家の外に連れ出しました。家の方を振り返ると、電線でつながれた家と電柱が綱引きをするように見えたり、揺れで家がぐにゃっと回っているように見えたりしました。

 地震後は水道も電気も携帯もだめ。一切通信できなくなりました。祖母と両親、私、子どもの5人で近くの公園に避難しました。妻は地震が起きた時に仕事に出ていて、避難所へたどり着いた時は涙ぼろぼろの状態でした。

 あちこちで地面が割れ、あそこの道が崩れ、ここの道が落ちという状態でした。橋も盛り上がって、地面に10~30センチの段差ができ車がパンクしていました。覚えておいてもらいたいのは、橋という橋は必ず渡れなくなるということです。

 余震が多く、初めの頃にはまだつながっていた道も、ほとんどなくなりました。余震は10月に455回、11月に152回、12月に34回、その後も月に2~9回ありました。震度5以上の余震は2カ月後までに18回ほど。

 本震の2日後、公園で歯磨きをしていたら震度5強がありました。近くの山がさざ波のようにダダダダーと揺れ、恐ろしかったことを覚えています。

 日頃の準備で大事なのは、まず家具の転倒防止です。大丈夫と思っていた物でも倒れました。

 高知県大豊町も車がないと生きていけない地域だと思いますが、ガソリンはとにかく大事。ガソリンスタンドも停電していたため、給油は店員の手作業で、1台当たり10リットルでした。手作業だから店員の体力的な問題があったんです。日頃から満タンに近い状態にしておくことを心掛けてほしい。

 震災後は被害状況の判定がありますが、必ず写真を撮るようにしてください。判定の前に直す人もいるが、それだと実際の被害が分からなくなる。傾いた家を直したばっかりに、「全壊」にならず「大規模半壊」になるケースがありました。

 最後に、ある人から「人間は苦しい時、悲しい時は笑うしかない、笑いしか出てこない」って言われた言葉が印象に残っています。何か苦しいことがあった時は笑うことが大切だと思います。その時は苦笑いだとか、愛想笑いになってしまうけど、笑っていればだんだん元気になってくる。生きてさえいれば何とかなると思っています。

 《ズーム》新潟県中越地震 2004年10月23日午後5時56分、新潟県川口町(現長岡市)を震源にマグニチュード(M)6.8、最大震度7の地震が発生。新潟県長岡市、小千谷市などで68人が死亡、約4800人が負傷した。住宅は約1万7千棟が全半壊し、上越新幹線が長岡市内で脱線した。中山間地域の被害が大きく、多くの道路が地割れや崩落によって寸断された。震源に近い山あいの山古志村(現長岡市)は孤立し、全村民2167人がヘリコプターで救出され、避難する事態となった。


地震きっかけに地域再生
 高知工科大学出身で、現在は新潟県長岡市で復興支援に携わっている植本琴美さん(38)=香川県出身=も高知を訪れた。「住民自ら地域課題に立ち向かう必要があった」などと語った。

 植本さんは高知工科大学地域連携機構の勤務を経て5年前から長岡市に移住。長岡市の公益財団法人「山の暮らし再生機構」で地域復興支援員として活動している。地域復興支援員は新潟県が復興基金を元手につくった制度で、住民と行政の橋渡しをしながら、復興と集落再生を担っている。

 植本さんは長岡市で活動を始めた頃の印象について、コミュニティーバスが運営されるなど、地域づくりがある程度進んでいるように感じたという。中山間の過疎地域で地域力を高めるきっかけになったのが、皮肉にも中越地震だったと説明する。

 長岡市は地震前から少子高齢化、過疎、農林業の衰退などの課題を抱えていた。これらが震災によって10年早く顕在化したと植本さん。単に元通りにする復興ではなく、過疎高齢化が進んでも山の暮らしが続けられる、持続可能な中山間地域の再生を目指したという。

 住民とワークショップを繰り返し集落の再生を議論。その結果、農家レストランや、地域外から約千人が訪れる越後トレイルランニングなど、新たな社会的価値が生まれたことを紹介。植本さんは「表面的には震災復興だったが、実は人口減少、過疎高齢化を含めた中山間の地域再生だったのではないか」と話した。


危機意識高め共助を 土砂災害など懸念
 2018年9月の北海道地震では220件以上の土砂災害が発生するなど甚大な被害が出た。南海トラフ地震でも高知県内の山間部は最大震度6強から7の揺れが予想されており、住宅被害や道路寸断などが懸念される。

 山間部に85集落が点在する長岡郡大豊町は、人家の多い地域のほとんどが土砂災害警戒区域に指定されている。ただ、台風などの風水害に比べ、地震への意識は低いと指摘する声は町内にある。

 そこで、山間部での被害が大きかった新潟県中越地震に学び、地震に対する危機意識を住民に高めてもらおうと開かれたのが今回の講演会。東豊永集落活動センターと、西峰集落活動センターが企画し、10月下旬に開催。住民ら約50人が集まった。

 東豊永集落活動センター推進協議会の氏原学会長は「私たちは行政が手を携えてくれると思っているが、被災すれば役場職員は来られない。住民がどう助け合っていくかを考えないといけない」と話していた。


《備防録》地震と豪雨
 西日本豪雨による被害が県内外で相次いだ2018年、高知県大豊町内で道路が崩落して集落が孤立したとの一報を受け、現場へ向かった。道中に見かける大小多数の土砂崩れ跡に、どこが崩れるか分からない恐怖を感じた。

 新潟県中越地震で被災した長岡市の桑原勝利さんが講演で紹介した写真は、豪雨被害を受けた町内の景色と重なった。山肌が滑り落ち、道路が陥没していた。地震と風水害。原因は違えど、起こる土砂災害は同じだ。

 大豊町では風水害に備え、地区ごとにワークショップを行い、事前防災行動計画の作成が進む。予知できない地震に対し、“事前”計画がどこまで有効か見通せないが、培ってきた防災意識は地震にもきっと生かせる。(嶺北支局・森本敦士)


避難して助かる喜びを感じるきっかけとなった「助かった音頭」(黒潮町佐賀)

《防災最前線》助かる喜び 音頭で知る 会所地区自主防災組織(黒潮町)
 国内最大級の津波避難タワーのすぐ隣に幡多郡黒潮町佐賀の会所地区はある。約100世帯210人が暮らし、ほぼ全ての家が浸水想定域内にある。30センチの津波が19分で到達するとされる。

 「『どうせ助からん』と諦める声をたくさん聞いてきた」。黒潮町佐賀地区の自主防災組織の会長、今村文夫さん(72)は振り返る。「どうしたっていくもんか」と訓練に後ろ向きな住民に、粘り強く参加を呼びかけるばかりだったという。

 転機は2016年11月、地区で初めて炊き出し訓練を実施した時だ。ご飯が炊きあがるまでの間、1人の女性が炭坑節を軽快に歌い踊りだした。

 周りもつられて手拍子に合いの手に「あ~よいよい」と大盛り上がり。次第に「みんなで避難して助かったき笑えるがで」「助かった音頭やね」と、訓練の中で避難して助かる喜びを口にする住民が出てきたという。

 今月17日、避難場所となっている高台の神社で行われた訓練に約40人が参加。傾斜がきつい避難道を「ここまで来れば大丈夫」と励まし合って登り切った。

 この日も炭坑節の陽気な歌声は聞こえた。文夫さんの妻、寿美子さん(72)は「落ち込んじょったちいかんと、考え方が前向きに変わってきた」と住民の変化を喜ぶ。

 防災意識の高まりで、ハードとソフト対策の必要性も一層感じるという。雨風をしのげる避難施設の整備や50代以下の若い世代の訓練参加促進など、地区の中で話し合いながら具体的に進めていきたいとしている。(幡多支社・平野愛弓)


そな得る(11)地震のL1とL2
 「想定外」の地震に襲われた東日本大震災を教訓に、国や高知県の防災対策は地震、津波の大きさを「レベル(L)1」「L2」の二つの考え方で進められている。

 「L1」は100~150年の間隔で発生してきたマグニチュード(M)8クラス。「L2」は発生頻度は千年に1度以下と低いものの、最新の科学的知見に基づき発生する可能性がある最大クラスの地震、津波を指す。

 いずれのケースでも想定される被害は甚大だ。高知県の想定によると、浸水面積はL1で8390ヘクタール、L2で1万9260ヘクタールに及ぶ。

 L1では死者数1万1千人、負傷者数1万4千人、発生1日後の避難者数19万1千人、経済被害額は3兆7千億円。L2では死者数4万2千人(L1の3・8倍)、負傷者数3万6千人(L1の2・5倍)、避難者数45万1千人(L1の2・3倍)、経済被害額9兆2千億円(L1の2・4倍)に上るとされる。

 それぞれのケースで想定される震度や津波浸水域は、県が運営するウェブサイト「高知県防災マップ」で確認できる。

 L1、L2を前提にしたハード整備の一つが、高知市の浦戸湾周辺で進む「三重防護」だ。護岸堤防は、いずれの地震・津波が起きても倒壊しない「粘り強い」構造への補強が行われている。

 堤防の高さは、L1の津波が来ても市街地に浸入しない程度にかさ上げする。この高さは、L2の場合に津波が堤防を越えたとしても、住民が避難できる時間を稼ぐ効果が期待されている。

 近い将来起こる地震がL1かL2かは分からない。想定はあくまで参考ととらえ、地震が起きれば大きな津波が襲来してくることを前提に、すぐに避難できる態勢を平時から整えておきたい。

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