2002.02.11 08:00
土佐の果物語(28) 第4部(5=終)魅力 かんだらジュワッ
モモという名前は付くが、普通のモモとは大違い。小さい実の中に、甘ーい酸っぱさが“満タン”に詰まっている。
短い旬も最終盤。熟れた濃い色のヤマモモを選んで一個一個摘み取らせてもらう。そのまま食べてみた。ジュワッ、この瞬間が何とも言えない。
ヤマモモは、昔から県民に根強い人気がある。
「以前は十市付近からてんびん棒をかついでお城下へ売りに行っていたようです。そのてんびんも残っちょります」と、高知市池のヤマモモ生産者、西尾和幸さん(75)。
「お銀のふとモモはいらんかえー。お銀のちぎったふとモモじゃ」
明治、大正のころ、ヤマモモ売りはこう言って売り歩いたという。このお銀さんという女性は実在の人物で、高知県出身の作家、中沢昭二さん(73)=東京都立川市=の祖母だそうだ。
中沢さんによると、お銀さんは実際にはヤマモモは売っていなかったが、とても美しい人だったので、象徴として使われたようだ。
さて、愛され続けるヤマモモのおいしさの秘密は? 西尾さんに聞く。
「肥料は苗を作る時には要りますが、山に植えた後は要らないのです。農薬も使わない。おいしさは品種の生まれ持った素質です」
そのあたりを県農業技術センター果樹試験場で説明してもらった。
「ヤマモモは肥料を下手にやると実が堅くなったりしていい実ができないんです。ヤマモモの根には、放線菌類が共生しています。根にすませてもらう代わりに土の中にある空気から窒素を集めてヤマモモの養分にしているんです」
北海道を除く日本全国が梅雨に入ったころ、県農業技術課の電話が鳴った。
新潟県からだった。
「ヤマモモを食べに行きたいのですが、いつ高知に行けばいいですか?」
日持ちがしないなら食べに行こう。そう思わせる魅力がヤマモモにはある。(経済部・竹村朋子)