2002.02.11 10:40
土佐の果物語(12) 第2部 (4)第二産地 樹上で甘い香り
そんな話を聞いて、二月上旬、宿毛市に向かった。
宿毛湾を望む南向きの斜面を中心に土佐ブンタン園が広がっていた。節分を過ぎたばかりなのに、うららかな陽光が降り注いで春めいた雰囲気。
宿毛でブンタンが栽培され始めたのは昭和四十年代と言われている。昔からこの温暖な気候を利用して夏ミカン、甘夏などを作っていたが、価格が低迷。代替として土佐ブンタンが広がっていったという。
高知はた農協の選果場を訪ねると、ちょうど選別を行っていた。
「最初のころは土佐市に習いに行きよった。共販体制が整ったころから、土佐市に追い付け追い越せという機運になってきた」
高知はた農協の宿毛文旦(ブンタン)研究部会の浜田幸三部長が続ける。
「まねをする限りはどうしても追い越せん。温暖な気候を生かして、完全に木の上で着色していこうと考えたんです」
土佐ブンタンは寒さに弱いはず。もし寒波が来ると駄目になってしまうのでは? 同農協の萩野幸治販売課長が答えてくれる。
「リスクもあるけど、それを恐れよったら宿毛の特色は出せません」
同じ日、高知県宿毛市や幡多郡大月町などでかんきつ類の消費者への直接販売を行っている大串農園の大串謙二さんを訪ねた。
「僕のような小さな農園が生き残るには完熟しかない。おいしい、いいものを作ろうと思うけど、なかなか太鼓判を押せるところまではいかんのですよ」
冬のやわらかい太陽光線が降り注ぐ大月町の果樹園。大串さんの言葉に、高品質を追求する生産者の心意気がみなぎる。
収穫目前、最後の土佐ブンタンが木にいっぱいぶら下がっていた。鼻を近づけるとほのかな甘いにおい。何となくバニラアイスの香りに似ているような…。