2014.05.10 08:19
ハマちゃんと歩く1201年目の88カ所 109日目 鯖の海を見ながら
およそ20人の若き男女の僧侶による読経が始まっていた。
17日午前5時すぎ、私たちは徳島県海陽町にある寺院「鯖大師(さばだいし)本坊」の本堂にいた。
冬の夜はまだ明け切っていない。本堂の外は暗闇に包まれているから、よりいっそう彼らの読経にみなぎる生気を感じる。
読まれている経は理趣経だという。弘法大師・空海が開宗した真言宗の経典である。男女の愛欲まで大いに認めながら、即身成仏を説く。
その理解に至るはずもないが、欲望を肯定しつつ生きながらにして仏になろうという教えは、若い彼らにふさわしいものだろう。
宿坊の客の特典として、朝の読経や夜の護摩といった仏事を間近に見せてもらえることがある。さらに今回は若い僧侶たちも加わった理趣経の大合唱を聴くこともできた。
「素晴らしかったなあ。得したね」と黒笹慈幾さんと喜び合う。
朝の勤行を終えて、朝食となる。食堂で彼らと一緒にいただく。無言の食事である。私も「鯖大師なのに塩鯖じゃなくて塩鮭(しおざけ)ですね」と黒笹さんに軽口をささやきながら、静かに食事を済ませた。
ところで、なぜ鯖大師なのか?
塩鯖を運んでいた男に空海が1匹の接待を願った。それが断られたため、空海は男の馬の腹を苦しめる呪術をした。悔い改めた男が空海に塩鯖を差し出した。空海は塩鯖を海に投げ入れ、鯖を生き返らせた――。
宿坊を出て、境内にある鯖を手にした弘法大師像を拝んでから、歩き始めた。
さて、徳島県の札所はすべて打ち終えた。いよいよ高知県に入る。次は室戸市にある24番札所・最御崎寺(ほつみさきじ)だ。鯖大師からの距離は60キロ近くもある。
それにしても空海の鯖が泳ぐ海は美しく、流れ込む海部川の水も澄み切っている。そんな光景に見とれながら、海陽町の宍喰までゆったり歩いた。