2021.10.20 08:50
保存食を ”楽しく回す”方法を解説 「まず食べてみて、が大事」 高知県など「ローリングストック」推奨 【地震新聞】
備蓄品の特設コーナーで品定め中の公文資子さん(同市稲荷町のサンシャインクラージュ)
高知市稲荷町のスーパー「サンシャインクラージュ」。啓発ソングの流れる一角に備蓄品の特設コーナーが設けられ、カセットこんろ用のボンベやパックごはん、カップ麺など10種以上が並んでいる。
市内の公文資子(もとこ)さん(50)が品定めしていた。「こうち減災女子部」という防災組織で活動しているという。
「備蓄というか、涼しくなったから、こんろで鍋でもしよっかな?という感覚。アルファ化米は苦手だから、レトルトごはんで。好みの食品しか家に置いてません」
新商品はまず食べてみる。「おいしければ即ローテ入り」し、自宅に常備しているカップ麺やパスタ、サバ缶などに加える。食べた分だけ買い足しているという、典型的なローリングストックの実践者だ。
ローリング―は、賞味期限が5年もあるような非常食をため込むことではない。むしろ逆で、少し保存ができて、普段から親しんでいる食材を使う。その食材を(1)少し多めに買う(2)賞味期限を見つつ食べる(3)食べた分を補充する―を繰り返す。
このやり方は、災害時に向けた訓練を日常に組み込んでいるところがミソ。県も「カセットこんろがあれば、普段食べている物が備蓄品になる」と推奨。9月から「ローリングストックの歌」を公開して普及中だ。
水道水のローリングを実践する北村佐代子さん。「この一手間がきっと役立つ」(同市知寄町2丁目)
災害時には、保存食に加えて、1人につき1日3リットルの水も必要になってくる。県内には水のローリング実践者もいる。
「ほら。これを20年以上やってるの。もう生活習慣。ほほっ」。高知市知寄町2丁目の北村佐代子さん(82)が、自宅の台所を示してカラカラ笑う。
蛇口の横に、2リットルのペットボトルが4本並ぶ。この水を鍋ややかんに移し、1日の料理やお茶に使う。空いたボトルは蛇口から補充し、奥に置いていく。これを回す。
1人暮らしで1日に使うのは2、3本。だから4本がちょうどよくて、古い水が放置されることもない。これとは別に、洗面所に12本、トイレには5本を置いている。
30年前、東京で暮らしていて断水を経験した。1日で水道は復旧したが、水が突然無くなる恐怖は忘れられないという。「こうすると、いざという時に助けになるわよ」
砕いたキュウリと姫カツオをポリ袋に入れて振る学生ら(いずれも高知市池の高知県立大)
いずれ本県を襲う南海トラフ地震では、県外から支援物資が届くのは4日目以降とされる。なので、各家庭は最低3日分以上を備蓄しておくことが望ましい。
ポリ袋で湯煎すれば卵とじも簡単
「普通においしいっ」。完成した災害食を楽しむ学生ら
使ったのは、カセットこんろと鍋、そしてポリ袋だ。そこに卵と缶詰のサバを入れて湯煎したり、キュウリを入れてパキパキ砕いたり…。40分ほどで、彩り豊かな6品が仕上がった=レシピ参照。
ポリ袋を駆使した調理は「パッククッキング」といい、災害時に有効という。湯煎する際も、複数の料理を同時に作れるし、アレルギーがある人は袋を分けることもできる。
野菜ジュースをドボドボ入れて戻したアルファ化米は、チキンライスのよう。即席みそ汁には乾燥キャベツを入れた。「災害時に不足しがちなビタミンCもこうすれば取れる」と島田講師。
一緒に作った学生らは「アルファ化米は甘酸っぱくておいしい」「キャベツを入れると食感がいいし、野菜を食べている充実感がある」と好評だった。
島田講師は「乾燥野菜は直販所や道の駅に売っているので、身近な食材で始めて」。強調したのは、普段の食事を意識すること―。栄養士として東日本大震災や熊本地震の被災者を支え、食との関係を痛感したからだという。
「ストレスのかかった災害時は、食べたことがある物しか口に入れたくなくなる。必ず口に合う物を備蓄しておいて。災害食だからと、変にハードルを上げたりしないで」
ローリングストックとは、日常から離れずに繰り返すこと。たまには、あえてカセットこんろで調理したり、家族でレシピを考えたりして、楽しく災害に備えませんか。(村上和陽)