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2021.07.18 08:00

【原発「60年超」】反省と教訓を忘れるな

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未曽有の被害をもたらした事故から10年。また「安全神話」が闊歩(かっぽ)しだしたようだ。
 政府が原発の運転に関する「原則40年、最長60年」の法定期間の延長を検討していることが分かった。来年にも原子炉等規制法改正案をまとめる方向で調整するという。
 運転期間の設定は東京電力福島第1原発事故を踏まえ、原発の再稼働にはめられた最低限のたがである。その原則をないがしろにすることは、事故の反省と教訓を忘れるに等しい。老朽化した原発は当然リスクも高まろう。国民の不安を顧みない運転長期化は到底容認できない。
 法改正に向け、原則40年間の運転期間そのものを長期化したり、最長20年間の延長を複数回可能にしたりする案が浮上している。
 このほか原発事故後に停止した期間を、40年間から除外する意見もあるようだ。運転期間延長と並行し、60年を超える場合の審査方法や点検の在り方も検討するという。
 政府の「原発再拡大」を図る姿勢は明らかだ。運転長期化の検討は具体化の一環とみて間違いない。
 21日にも示されるエネルギー基本計画の改定案では2030年度の電源構成比について、太陽光や風力など再生可能エネルギーを現行目標の22~24%程度から36~38%程度へ引き上げつつ、原発は現行の20~22%程度を堅持する方針とみられる。
 この原発比率目標を実現するには約30基の運転が必要とされるが、事故後に再稼働したのは33基のうち10基にとどまる。
 経済産業省や自民党では、事故後も新増設やリプレース(建て替え)を探る動きがくすぶってきた。ただ現実的には、原発を巡る電力会社の不祥事もあって国民の理解を得るのは難しい。残る選択肢が「既存原発の延命」だったのだろう。
 運転の40年ルールは、運転開始から44年を超える関西電力美浜原発3号機が再稼働するなど、既に骨抜きになっている。
 しかし、どんなメンテナンスを施したとしても、古い機械は故障のリスクがそれだけ高くなる。原発も決して例外ではあるまい。電源構成の数字合わせに向け、老朽化した原発に頼る姿勢は「安全神話」に侵されていたかつての原子力行政と重なって見える。
 地球温暖化対策で温室効果ガス排出の抑制を迫られているとはいえ、原発の安全性は別の問題として考えなければならない。万一、過酷事故が発生すれば、削減できた温室効果ガスの影響とは比較にならない被害をもたらす。
 原発事故から10年を経ても4万人を超える人々が県内外で避難生活を余儀なくされ、原則立ち入り禁止の帰還困難区域も残る。福島の漁業者は試験操業を続けて消費者らと向き合ってきたが、汚染水を浄化した処理水の海洋放出でまた風評被害にさらされかねない。
 いまだ被害に苦しむ人々へ、政府はどう原発再拡大を説明するのだろうか。

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