2017.02.14 08:00
大流通を追って 消えないカツオ(12)「小流通」の存在感
「ええカツオはケツがポンとして色気がある。うもないのは顔がきつい。一目瞭然よ」
元一本釣り漁師から聞いた、分かるような分からないようなカツオ選びのコツを頼りに見比べると、確かにあった。「食うてくれ」という顔が―。
「さあ、やろう!」と、競り人が一声。
地元の久礼や周辺自治体から来た鮮魚店や料理店の店主のほか、たたき販売業者、仲卸業者ら40人ほどがカツオを囲んだ。
半分に折った紙切れを次々に競り人に渡す。中には、例えば「1090」「889」と、1キロ当たりの買値が記されている。
1円差で競り勝つこともあるため、あえて半端な数を書く。語呂合わせで買値を決める人もいるという。
記者が「うまそう」と見込んだカツオは、県外への発送を手掛ける仲買人の手に渡った。高値を付け、購入量も多いため、ほかの鮮魚商たちが「いかん、落とせん(買えない)」とざわついた。
◆
年間を通じてカツオを供給するため、県外の産地から大量に高速で引き寄せる「大流通」は圧巻だ。
その一方で、大流通とは異なる存在感を放つ末端の流通網がある。産地近くで、高齢者が住む山で。カツオの「小流通」がしぶとく息づいている。
「地物を売りたい」は、県内でカツオを扱う多くの人の思い。そして「安定供給するには、県外産に頼らざるを得ない」のも現実だ。大流通に乗り切れぬ地物が、県外の大都市に吸収される構図も目の当たりにした。
大小のカツオの流れは、補い、押し合い、時に交錯しながら、消費者の口へと続く。
◆
中土佐町久礼は、日本のどこにでもありそうな小さな漁村。入札が終わり、カツオを積んだ大小のトラックが市場を離れていく風景も、変わらぬ日常だ。
「うちは店売りがほとんど。丸ったで売るから1キロちょっとのカツオがえい。お客さんが買いやすい」
静かになった市場の隅で、山崎凱彦(よしひこ)さん(79)が大小70匹を、丁寧に軽トラに積んでいた。須崎市中心部で、「山崎鮮魚店」を家族で営んでいる。
9時半の須崎魚市場でも魚を仕入れ、11時前には店頭に並んだ発泡スチロール箱を多種多様な魚が埋めた。ブリ、キビナゴ、小アジ、カマス…。
車や自転車で。つえをついて徒歩で。お客さんが絶えない。隣の土佐市や高知市からの常連もいる。
発泡スチロールに手書きした「おいしい土佐沖のカツオ」「久礼どれ」の看板の前で、近所の主婦2人が「このカツオ、きれいなねえ」と1匹を指さして立ち止まった。
「なんぼ?」
「いらっしゃい。これは2400円」
約3・5キロで一家庭の夕食には大きすぎる。山崎さんはすぐにさばいて4分の1ずつ売った。背節610円、腹節590円。
中学生時代から鮮魚店への「でっち」で経験を積み、1975年に独立。1日で1トン近いカツオを売ったこともあるという山崎さんが、何かを見抜くような目で言った。
「近くに量販店ができたら商売にならんという人もいる。けんど、小店(こみせ)なりのやり方はある。大きい店ができんことをやらないかん。面白いね、商売は」(報道部・八田大輔)=おわり