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2017.02.14 08:25

大流通を追って 消えないカツオ(6)土佐沖発670キロの旅

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土佐沖のカツオを積み高速道路をひた走る。「神戸の明かりや」と浜岡一喜さん(9月14日午後7時ごろ)

 総務省の家計調査(2014~16年平均)で、高知市の1世帯当たりのカツオ消費量は年間4178グラムで断トツの全国1位。高知の飲食店などでは1年を通じて観光客らがカツオを求める。

 一方で、漁師はここ20年以上、漁獲減を嘆く。新聞には近年「不漁」「危機」といった見出しが並ぶ。

 それでも、県内の量販店には今日もカツオが並んでいる。

 海上の生産者の感覚とは裏腹に、高知県民にとってカツオは、むしろ“消えない魚”ではないのか。

 不漁なのに、なぜ消えないのか。消費地・高知を中心に陸のカツオを追った。

 230万人都市、名古屋につながる深夜の高速道路をトラックが埋めている。その中で、高知ナンバーの1台も東へ飛ばしていた。箱形の荷台に「土佐沖鮮魚直送」の文字。積み荷は生カツオだ。

 高岡郡四万十町の「丸正水産」は地元での卸売業の他、生カツオの県外出荷を行っている。9月14日は土佐清水と中土佐町久礼、黒潮町佐賀に水揚げされた3キロ前後のカツオ計約2トンを自社トラックで発送した。黒潮町で最後のカツオを積み終わったのが午後2時前。記者も急いで助手席に滑り込んだ。

 約3時間後、高松市の中央卸売市場で約260匹を降ろした。さらに淡路島を越え、甲子園球場の横を抜けて午後8時に大阪市中央卸売市場本場へ。約200匹を降ろし、わずか10分後にトラックは再び走りだした。

    ◆

 地物のカツオは県外産とは異なる“時間の流れ”で流通する。同社の矢野賢一専務(45)は「情報、量、価格の三つの要素が関係する」という。

 店舗数の多いスーパーは日中の業務時間内に発注するため、午前11時までに翌日分の入荷情報を求める。ところが日帰りの漁が主体の県内の港では、水揚げや入札が午後となることも多い。日の出から漁が始まり、正午を過ぎてカツオを追っている漁師もいる。

 一方、鹿児島や宮城・気仙沼などでは、朝のうちに取引が終わり価格や量が確定する。前日までに取られたカツオで、県内産より低価格なことも多い。

 「スーパーは必要量を早く構えられる方が安心する。規模が小さいスーパーは、情報が遅くても地物を入れている」と矢野専務。各スーパーは、地物の水揚げが多い時に午後の追加注文で地物を並べることもあるが、既に必要量を県外産で発注済みのため、仕入れる量は限られる。

 土佐沖のカツオは県内流通からあふれたり、大都市のスーパーが春秋の季節商材として高値で引き寄せたりすることで、県外に流れ出ることになる。

     ◆

 「(アクセルを)踏んでも、踏んでも、着かん…」

 トラックの運転席で浜岡一喜さん(30)が疲れた表情でぼやき、眠気覚ましのたばこに火を付けた。次々に分岐する都会の高速道路を慣れたハンドルさばきで走り抜けていく。名古屋は遠い。往復に必要な軽油は300リットルだという。

 水産物の取扱量で、名古屋市中央卸売市場本場は東京の築地、大阪本場に次ぐ規模を誇る。巨大消費地にカツオ約280匹を降ろし終えた時、時刻は午前0時を回っていた。
 記者はカツオと共にトラックを降り、午前3時に再び同市場へ。

 三重、宮崎、鹿児島、神奈川と、各地のカツオが並ぶ一角に、前日に釣られた土佐清水産と、前々日の久礼産が置かれていた。

 行き先は秋メニューを企画中のレストランや料亭、名古屋駅近くの民間市場「柳橋中央市場」などという。

 午前10時。名古屋市中心部のスーパーに「高知のカツオ、入荷しておりま~す!」の声が響いた。

 「『高知の』って付くと、ブランド感があります」と店員さん。近くの料理店主が「刺し身の盛り込みに秋の季節感を加える」と1パックを手に取った。

 土佐沖で釣られ、約670キロの旅。「刺し身用。780円」と刻まれたシールと皮付きの美しい赤身を、感慨深く見つめた。

高知のニュース カツオと海

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