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2017.02.14 08:40

大流通を追って 消えないカツオ(3)ピンクより赤の選択

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午前7時ごろ、薄暗い事務所で作業を始めた松田むつみさん。この後、市場などからファクスや電話が押し寄せる(高知市北御座)

 総務省の家計調査(2014~16年平均)で、高知市の1世帯当たりのカツオ消費量は年間4178グラムで断トツの全国1位。高知の飲食店などでは1年を通じて観光客らがカツオを求める。

 一方で、漁師はここ20年以上、漁獲減を嘆く。新聞には近年「不漁」「危機」といった見出しが並ぶ。

 それでも、県内の量販店には今日もカツオが並んでいる。

 海上の生産者の感覚とは裏腹に、高知県民にとってカツオは、むしろ“消えない魚”ではないのか。

 不漁なのに、なぜ消えないのか。消費地・高知を中心に陸のカツオを追った。

 ◆ 

 水産バイヤー、松田むつみさん(43)の仕事は、早朝に“日付変更線”を越える。

 夜明け前に高知市弘化台の卸売市場に入って仕入れの仕事を済ませ、バイクで約10分ほど走ってスーパー「サニーマート」本部(同市北御座)に到着したのは午前6時半。

 「ここからは明日のことを考えます。今日のことはほぼ終わり」

 冷房の効いた休憩室で一服し、誰もいないオフィスの席に着いた。空調の音だけがビーンと響き、「定番の進化」という社内標語が壁に貼られている。

 書類の整理などをしていると、ファクスが流れ始めた。

 鳥取・天然ブリ1尾5~6キロ。高知室戸・ゴマサバ1尾700グラム。気仙沼・カツオ1尾3キロ…。弘化台の卸売市場や県内の水揚げ地などから翌日の入荷見込み量、価格などが送られてくる。

 携帯電話も頻繁に鳴る。「ベイケン? 欲しいねえ。何ケースある? サンマル(300円)ぐらいがいいなあ。だめ?」

 担当するのはカツオを含め、刺し身などになる生魚全般だ。

 情報が出そろった10時半ごろ。「さ、始めよ」と、座り直した。

 ファクスや電話で受けた情報を、「生うに・50gバラ ロシア」などとパソコンに入力すると、価格などと合わせて県内の18店舗に伝わる仕組みだ。

 生カツオの欄にはこう打ち込んだ。

 「三陸北部沖、網」

 「鹿児島、釣」

 「長崎、釣」

 「釣」は一本釣りで、「網」は巻き網漁によるカツオを表す。1キロ当たりの仕入れ値なども入力した。

 ◆ 

 この日は週末の2日分の仕入れ。松田さんは店舗向けに、メッセージを付け加えた。

 「長崎、三陸は土曜日の使い切り」

 生カツオの水揚げ量が20年連続日本一の気仙沼港に上がる三陸沖のカツオは、脂の乗りが特徴。今年は不漁の上、脂のない小型魚が目立ったが、例年は「トロカツオ」とも呼ばれる秋の味覚で、関東などで好まれる。そしてまた、日本海へと向かう対馬海流周辺が漁場の長崎産も「脂もの」だという。

 消費者にとって「脂の乗り」はカツオのおいしさの一つ。だが、高知で受けるのは「赤身」の味。全体に脂が回ったピンクのトロカツオではなく、皮のそばにだけ脂が差した赤色のカツオが好まれるという。

 さらに松田さんは「脂ものはおいしいけど、時間がたつと色がとんじゃう。見た目はとても売れ行きに影響します」と明かす。

 脂が多いカツオを高知の売り手は「脂をかんでいる」と表現する。脂が多いということは、必ずしも褒め言葉ではないのだ。

 ◆ 

 午後3時すぎ。各店が週末分として希望するカツオの量と産地が出そろった。

 鹿児島127匹。

 気仙沼19匹。

 長崎7匹。

 実は、松田さんは市場の卸売人との情報交換を踏まえ、「明日は長崎が一番」との思いを持っていた。それでも店側は赤身の鹿児島産を最も多く選んだ。

 消費の最前線ゆえの選択を松田さんは理解しつつ、うなった。

 「長崎、いいんだけどなあ…」

高知のニュース カツオと海

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