2024年 05月18日(土)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2024.05.05 05:00

【こどもの日】丁寧に考え続ける力を

SHARE

 テーブルの上にリンゴがある。でも、何かの卵かもしれない。いや、反対側はミカンかもしれない―。
 絵本作家、ヨシタケシンスケさんの代表作「りんごかもしれない」(ブロンズ新社)は、考えることを存分に楽しめる絵本だ。
 全国の小学生が、自分が一番好きな本に投票する「小学生がえらぶ!〝こどもの本〟総選挙」で昨年度1位に輝いた。投票者の1人は「いろいろな発想が出てきて面白かったし、自分にアイデアをくれるからとても好きです」と話していた。
 ヨシタケさんは以前、自身の大規模展覧会についてのインタビューでこう語っている。
 「すぐにわかるわけない問題の結論を出さず、考え続ける。そのことに自信を持っていいと思うんです」
 近年、本でもネット上でも単純明快な主張や意見が目立つ。効率化が叫ばれる時代のせいか、直ちに答えを求める人もいるのだろう。
 だが、世の中は明確な答えのある問題ばかりではない。どちらかといえば、簡単に答えの出ない、複雑な問題が多いのではないだろうか。
 少子化や高齢化で地方を中心に深刻な人口減少が進む。企業間、地域間の賃金格差も縮まらない。物価高を背景に困窮層も拡大している。他にも災害、感染症、気候変動など、いまだ解決を見ない課題が山積している。
 もちろん素早い決断と対応を迫られる場面もある。一方で、重要なのが多角的な視点で考え続ける力だ。
 学校現場では子どもたちの柔軟な思考力をつける取り組みが進む。
 2000年代に入り、総合学習や探究学習といった主体的に考える学びや対話を取り入れた授業が重視されるようになった。一方的に教える授業では、先の見えにくい時代を生きる力を育みにくいとし、思考力や判断力、表現力を身につけ、多様な意見を踏まえて問題を解決する力を養うことを目指している。
 とはいえ、実際は与えられた問題や、答えがある問いについて考えることが少なくない。子どもが自由に問いを立て、考えを巡らす機会はそれほど多くない。
 主体的で対話型の学びを実践しようとすれば、時間も手間もかかる。教員は研修や視察などで授業方法を学ぶ必要があるが、余裕がない。文部科学省の2022年度の勤務実態調査では、月の残業が45時間超の教員は中学校77・0%、小学校64・5%に上る。教員の数を確保するとともに、学習内容や分量の見直しも欠かせない。
 「この先、いろんなことが起こったときに、こうやって考えたら面白いかもしれない、こういうことがあるかもしれないと、『かもしれない』を上手に使いながら楽しく過ごしていってもらえるとうれしいです」。ヨシタケさんは総選挙の受賞の喜びをそう語っている。
 きょうは「こどもの日」。子どもにとって世界は疑問だらけである。素直な問いを大切にし、丁寧に考え続ける力を育みたい。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月