2024.05.04 08:00
小社会 魂の音
正確に速く弾くことが良しとされる時代に反旗を翻すよう、とも評される。この曲に臨む心情をヘミングさんは近著「永遠の今」で語っている。「まず、音がきれいじゃないといけない。かといってうまく弾けばいいわけでもなく、作曲家の魂に近づくように弾く」
日本人の母とスウェーデン人の父を持ち、幼少期に来日した。戦時中はいじめにも耐えた。「目が外国人みたい」と言われないよう、弟と2人でひたすら下を見て歩いたという。
戦後はスウェーデン国籍が失効しており、難民としてドイツに留学。デビュー直前に風邪が原因で一時、聴力を失う。脚光を浴びたのは60代後半から。心を揺さぶる演奏は、多くの苦難を乗り越えた人生の表れといわれる。
著書には初恋の話もある。岡山の疎開先。学校のピアノを借り、毎日練習した。ある日、駐屯している兵隊に声をかけられた。「今日はピアノを弾かないんですか」。その兵隊と会うことはもうなかったという。戦火に好きな音楽も楽しめず、苦難と向き合う人々も多いであろう今の世界をつい連想する。
ヘミングさんの訃報が届いた。魂の音をぜひ公演で聴きたかった。