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2024.05.02 16:36

昆夏美・大原櫻子「生みの苦しみ味わってます」村井良大・海宝直人「日本の作品を日本人が演じるからこその繊細な表現を」 ミュージカル「この世界の片隅に」インタビュー ※動画連動

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 チームワークの良さを見せる(前列左から)海宝直人、村井良大(後列左から)昆夏美、大原櫻子

 こうの史代の人気漫画が原作のミュージカル「この世界の片隅に」が、5月9日~30日に東京・日生劇場で上演、その後全国ツアーが行われる。太平洋戦争末期の広島県・呉で生きる人々を繊細なタッチで描き、ドラマやアニメにもなった名作が初のミュージカル化。シンガー・ソングライターとしても知られるアンジェラ・アキの力強い音楽が、物語に新たな命を吹き込む。


 主人公すず役は昆夏美と大原櫻子、その夫・周作役は海宝直人と村井良大がそれぞれダブルキャストで演じる。ミュージカル界の第一線で活躍する4人が演出家らと手を携え、自由に意見を出し合いながらステージを構築しているという今作。海外作品の“輸入”が多いミュージカル界で、「日本人のスタッフとキャストによる、日本語のミュージカル」を生み出す熱気に満ちた稽古場の雰囲気を聞いた。


 【目次】


 (1)日本人としての覚悟を


 (2)「強い音楽」とのバランス模索


 (3)歌詞もせりふもどんどん変化


 (4)ミュージカルで戦争を描くということ


 (5)互いに刺激し合う稽古場


 (6)「日本人のために、日本人が演じる」ミュージカル




 (1)日本人としての覚悟を



 ▼記者 まずは昆さんと大原さんに。主人公すず役に決まった時の心境はいかがでしたか。



 ★昆 すずさんという役と、私が今まで演じてきた役のイメージが離れているので、まさかオーディションに受かるとは思っていなくて。新しい扉が開くのかな、と楽しみでした。



 ◆大原 日本人としての覚悟を持って臨まなければいけない役だと思いました。なのでオーディションは緊張したんですけど、アンジェラさんの曲が素晴らしくて涙が止まらなかったので、この曲を絶対に歌いたくて頑張りました。



 ▼記者 以前からアンジェラさんの曲はよく聴いていたんでしょうか。



 ◆大原 学生時代からめちゃくちゃ歌ってました。「手紙~拝啓 十五の君へ~」とか。青春をともにした曲です。



 ★昆 私は「This Love」がカラオケの十八番です。今回の楽曲も懐かしい感じがすると同時に「この曲がどこでどう使われるんだろう」と想像力をかき立てられました。




 ▼記者 村井さん、海宝さんは出演が決まった時、どんなことを感じましたか。



 ●村井 僕がこの作品を最初に見たのは2016年のアニメ映画だったんですけど、優しい世界観と、厳しい現実の間を行き来するような作品だなと思って、心に残っていました。僕は「日本人の役」も久しぶりだったので、この作品の雰囲気に合うような周作をつくり上げていかないと、と感じました。



 ■海宝 原作もアニメも、とてもかわいらしい絵柄で、そこに息づいている人たちの生々しい感覚を丁寧に描いている作品で、これをミュージカルにする、しかもアンジェラ・アキさんが楽曲を手がける、(上田)一豪さんが演出するということで、どんな作品になるのか、良い意味で想像がつかなかった。オリジナル、日本初演の作品をつくっていく、そういう場に呼んでいただけたのが光栄でした。




 (2)「強い音楽」とのバランス模索



 ▼記者 ドラマやアニメ映画にもなった人気作ですが、ミュージカルにすることで物語のどんな側面により光が当たると感じていますか。



 ●村井 それを考えながら稽古している最中ですね。



 ■海宝 アンジェラさんの音楽と、お芝居と、表現がどういうふうに寄り添いながら、今回ならではの切り口になっていくかを建設中というか。



 ◆大原 音楽があることで、せりふだけの時より表現が何倍にも増して伝わってくるんですけど、強すぎてせりふがあんまり効いてこなくなる時もある。そのバランスが難しいところでもあり、ベストな形が探れたら素晴らしい作品になるとも思います。



 ★昆 音楽だけでそのシーンが完結してしまうくらいの力を持つ楽曲が集まっているからこそ、そこにお芝居をどう入れていくかという課題が生まれる。ぜいたくなことですね。



 ▼記者 アンジェラさんの音楽がそれだけ強いんですね。



 ■海宝 もともと言葉や表現にドラマ性のある方なんですよね。海外に留学されたことで、以前からあったドラマ性がさらに色濃くなりながら、J―POPで培ったグルーヴ感みたいなものもしっかり残っていて、唯一無二の魅力がある。



 ▼記者 だからこそ、単純に足すと過剰になってしまうと。



 ◆大原 けんかっていう言い方でいいのか分からないですけど、どっちも主張が強いので、受け取るものが一つじゃなくなると、お客さんも迷子になっちゃうような気がして。



 ■海宝 ただ、この音楽と、お芝居がうまく合致した瞬間のエネルギー、伝わるメッセージは、ストレートプレイや映像作品では起きない化学反応だと思います。稽古場でもその片鱗は少しずつ見えてきています。



 ●村井 原作もいい、音楽もめちゃくちゃいい。後はこれを足して、少し引き算すれば、すごい名作になるという予感はある。そのせめぎ合いを今やっているというか。



 ■海宝 クリエイターの思いがぶつかり合って、新しいものが生まれている。良い現場です。


 


 (3)歌詞もせりふもどんどん変化



 ▼記者 「ここが難しい、けどできたらきっと楽しい」と感じているところは?



 ◆大原 昆ちゃんとも話してたんですが、一番つらいときにバックで流れている音楽があって、感情も思わずそこに乗っかってしまうんですけど、乗りすぎると涙も心もボロボロになってしまって。最後まできちんと届けられるか心配になるくらい、メンタルに来ます。



 ▼記者 すずさんのキャラクターとして、そういうのを表に出しすぎてもよくないですよね。



 ★昆 そうなんですよ。すずさんの目線で見た物語なので、引っ張っていかなきゃいけないんですけど、ただエネルギーだけで引っ張っていく役じゃないので、難しいですね。



 ▼記者 聴きどころを挙げるとしたら?



 ●村井 周作的にはデートの歌とかいいよね。



 ■海宝 「醒めない夢」ですね。アンジェラさんがすごくこだわりを持って作っていて、さらにお芝居との兼ね合いで、演出の一豪さんと意見をぶつけ合って、今まさに形作られているところで、明日からまた歌詞が変わるんですけど。



 ●村井 海外の作品だと歌もせりふも変えられないということも多いので、そういう意味で役者が言うこともくみ取ってくれながら、ものづくりができるのは楽しいです。苦しいこともあるけど「生みの苦しみ」なので。



 (4)ミュージカルで戦争を描くということ



 ▼記者 作品を通じて、戦争という重いテーマにどう向き合っていますか?



 ●村井 これは(原作者の)こうの先生の言葉なんですけど、戦争を体験した人だけが語ればいい、という状態はよくない。経験したことのない人にも伝えていく責任と義務があるんだと。まさにその通りだと思いました。平和とは、戦争とはなんだったのか、僕らもこの作品を通じて考えて、伝えていくべきだと思います。ただ「犠牲者」ということだけを考えて演じないようにはしたいです。当時の方々は絶対に前を向いて生きていたので。



 ◆大原 私は当時の方の気持ちを知りたくて、お話を聞きに行きました。意外だったのは、戦争中はみんなが生き生きしていたということ。決して暗いムードじゃなくて「防空壕を作るのが楽しかった」なんて話もあって。今回アンジェラさんが書いた「防空壕ポルカ」っていう曲も、すごく楽しいメロディーなんですよね。



 ▼記者 当時の人の気持ちに寄せて、役をつくっているんですね。



 ★昆 私はそういうのが苦手というか、体験してないのに知った気になるのも申し訳ないと思うタイプなので、今すごく苦しいです。それでもできる限り想像して、皆さんにお伝えすることで消化できたらなと思っています。



 ▼記者 全国ツアーの最後は広島・呉でも上演が予定されています。地元の皆さんに届けたい思いは?



 ●村井 まずは広島弁ですね。ちゃんと呉で通用するように。



 ◆大原 イントネーションが独特なので、それこそ歌みたいな感じですよね。



 ★昆 確かに。ずっと歌ってる感覚かも。



 ◆大原 難しいんですよ。感情が入るとどうしても広島弁でなくなってしまうのが悔しくて。本当はせりふを間違えても気にしないで次に行かなきゃいけないんですけど、イントネーショを気にしすぎて言い直しちゃう。



 ★昆 分かる! 「昨日、家では言えたのに~!」って。シーンを通すと普段のイントネーションが出てきちゃうのは不思議です。



 ■海宝 結果、謎の方言が生まれるんだよね。それで(方言指導の)先生に指摘されたり。




 (5)互いに刺激し合う稽古場



 ■記者 ダブルキャストの場合、お互いの稽古を見ることで役への理解が深まることも多いと思います。稽古場で感じる「相手の良いところ」はありますか?



 ◆大原 昆ちゃんはせりふの言い回しが絶妙です。音楽が流れてる間にせりふを言うところがあるんですけど、昆ちゃんはいかにもすずさんらしく、のーんびりしゃべってて、なのにきれいに間が埋まってて。ちゃんとキャラも入ってて、せりふも聞こえる、そういう役作りが素晴らしいです。



 ★昆 ぼーっとしてるのは「せりふ何だっけ?」って思ってただけかも(笑)。さくちゃんがすごいのは、荒通しの段階からちゃんと気持ちを通せるところ。ようやく芝居の外枠ができた段階なので、私はいちいち考えてしまって内面までいかないこともあるんですけど、さくちゃんはその段階から気持ちが動く。感受性が豊かなんだなって思います。



 ■海宝 良大くんは俯瞰でいろんなものを見ていて、それでいて妥協なく演劇に臨んでいるというか、思ったことを演出家とディスカッションするエネルギーがある。ぶつかり合うことを恐れずにクリエイトする姿勢に刺激を受けます。



 ●村井 海宝くんはミュージカルがとにかくうまい! 僕なんかはせりふがあって、その延長に歌がある感じなんですけど、海宝くんは歌があってその延長にせりふがある。見るたびにキュンキュンします。まさに「ミュージカルを愛し、ミュージカルに愛された男」ですね。



 昆・大原 (笑)



 ■海宝 なんだこれ(笑)。恥ずかしいな!



 ◆大原 素直に「ありがとう」って思いましょう(笑)。



 (6)「日本人のために、日本人が演じる」ミュージカル



 ▼記者 最後に、お一人ずつ見どころを教えてください。



 ★昆 今まさに「生みの苦しみ」を味わっているんですが、そういうチャレンジをできることがうれしい。毎日いろんな案を出し合って、私も思うことを言いながら、3人の言葉からアイデアをもらうんですね。すてきな方たちとつくる「日本のミュージカル」を楽しみにしていただきたいです。



 ◆大原 今回は美術面でも日本のいいところがたくさん見られると思います。すずさんのスケッチブックがモチーフなんですが、あるシーンを境にがらっと変わるそうなので、私もすごく楽しみ。アンジェラさんの曲も懐かしい日本の香りがするものが多くて、古き良き日本の世界観を楽しんでいただければと思います。



 ●村井 全員が自信を持って届けられる作品になるのが本当にうれしいですね。海外の作品だと「このギャグ、日本では絶対通じないだろうな~」と思いながらやることもあるので(笑)。日本人のために日本人が演じる、健康的な現場だなと思います。



 ■海宝 僕も同じで、輸入物だと翻訳があって、日本語でどう歌詞をはめるかが重要になってきますけど、今回は日本語の音と意味を徹底的に考えて「こういう言葉がいいんじゃないか」と選んでいる。その繊細さは魅力になると思っています。日本人が日本人のためにつくっている作品、その余白にある「日本人だから感じられるもの」を味わってほしいです。



 ※4人のインタビュー動画をYouTubeチャンネル「うるおうリコメンド」でご覧になれます。「うるりこ」で検索を。



 ※ミュージカル「この世界の片隅に」は5月9~30日、東京・日生劇場で上演。その後の日程は次の通り。


 ▽北海道・6月6~9日札幌文化芸術劇場hitaru ▽岩手・15~16日トーサイクラシックホール岩手 ▽新潟・22~23日新潟県民会館 ▽愛知・28~30日御園座 ▽長野・7月6~7日まつもと市民芸術館 ▽茨城・13~14日水戸市民会館 ▽大阪・18~21日SkyシアターMBS ▽広島 27~28日呉信用金庫ホール



 【こん・なつみ】1991年生まれ、東京都出身。2011年に「ロミオ&ジュリエット」ジュリエット役で舞台デビュー。主な出演作に「ハムレット」「ミス・サイゴン」など。



 【おおはら・さくらこ】1996年生まれ、東京都出身。2013年に映画「カノジョは☆(口ヘンに虚の旧字体)を愛しすぎてる」のヒロイン理子役でデビュー。歌手、俳優として幅広く活動。



 【かいほう・なおと】1988年生まれ、千葉県出身。7歳から劇団四季で子役として活動。主な出演作にミュージカル「レ・ミゼラブル」、劇団四季「アラジン」など。



 【むらい・りょうた】1988年生まれ、東京都出身。2007年にドラマ「風魔の小次郎」で初主演。ミュージカル「RENT」「デスノート」など出演作多数。



(取材・文=共同通信 高田麻美 撮影=佐藤まりえ)

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