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2024.04.29 08:00

【スポーツと暴力】根絶への歩みを進めよ

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 スポーツ界の暴力やハラスメントが後を絶たない。暴力は許さないとの意識を社会全体で高め、根絶への歩みをもっと進めたい。
 日本スポーツ協会が設けた窓口への相談件数が2023年度、統計開始の14年度以降最多の485件に上った。前年度より100件余り増えた。
 暴力や暴言などの撲滅を目指す活動や相談窓口の認知度の向上で、問題が表面化されやすくなったとされる。だが、不適切な指導が根強く残る現実を見過ごすことはできない。
 内訳で見ると、暴力が15年度をピークに減少する一方、暴言は増加傾向が続き、前年度から微増の39%と最も多かった。パワーハラスメントと合わせると約6割を占める。
 12年の大阪市立高校バスケットボール部員が体罰を受けて自殺した事件や翌年発覚した柔道女子代表の暴力指導問題を機に、国内のスポーツ団体は13年に「暴力行為根絶宣言」を採択した。以降、暴力は許されないとの認識が社会に広まってきた。
 宣言では「言葉や態度による人格の否定、脅迫、威圧、いじめや嫌がらせ」も暴力行為と位置づけている。しかし、暴言やパワハラへの認識は変わっておらず、陰湿な事例が増えているとみられる。身体的な暴力より悪質性が薄いとの考えは、直ちに改める必要がある。
 被害者は7割近くが未成年で、うち小学生が約4割を占めた。
 指導者の言動に敏感な子どもは、暴力や暴言を受けると自分を責め、自信を失う。それは一時的なものではなく、大人になってからも続くといわれる。子どもを傷つける行為は指導でなく、決して容認できない。
 根絶に向けて重要なのは、まずは指導者の教育だ。指導現場では適切な指導が分からず、即効性のある暴力に訴えるケースがあるという。指導者に研修を義務づけるなどの制度づくりが急がれる。
 保護者と子どもへの働きかけも欠かせない。
 全国大会出場などの実績に目を向けるあまり、指導者の判断に任せ、暴力的な指導を容認する保護者や子どもが少なくないと、専門家は指摘する。進学や就職に影響するため問題は根深いが、粘り強く訴えていくほかない。
 スポーツ指導を巡っては、23年度から国が進める公立中学校の部活動の地域移行も注目される。
 地域移行は、地域クラブや民間事業者に指導を委ねる。教員の負担軽減につながると期待される一方、指導者がクラブの運営も兼ねる形となると、外部からのチェックが働かなくなり、暴力を助長する恐れがあるとの懸念もある。
 明るい兆しもある。近年、旧態依然の方法に限界を感じた指導者が、生徒の主体性に任せて成長を促す指導法を取り入れる動きが出てきた。静岡市の高校ラグビー部では選手主体の意見交換や意思決定を重視し、全国大会に何度も出場している。
 競技を楽しみながら、人格や身体の形成につなげていく。それこそがスポーツの意義だといえる。

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