2024.04.23 05:00
小社会 根回し
ただ、デメリットだけ、でもないだろう。合理性が求められる経済活動の中で、この慣習が残ったのにはそれなりの理由がある。元明治大学学長の故・山田雄一さんも著書「稟議(りんぎ)と根回し」で、「協働者という名の他人に対する配慮」と擁護した。
確かに、根回しには手間と時間がかかりがちだ。それでも、相手の立場や感情を尊重することで上司や関係部署との無用な衝突は避けられる。物事を円滑に進めるための、日本人の知恵といえよう。
そんなルールは社会全般に及ぶ。例えば原発再稼働。地元同意という前提条件には住民への根回し、というより正面からの説明が求められよう。だが、それさえかまっていられないほど焦っているのか。
東京電力が新潟県の柏崎刈羽原発7号機に、地元の同意を得ないまま核燃料を装塡(そうてん)し始めた。作業を終えると制御棒を引き抜くだけで再稼働状態に。1月の能登半島地震で、自然災害と原発事故が重なった場合の避難に不安が高まっている。日本の文化には到底なじまない強引さである。
たとえ県知事が最終的に同意しても、形のみの根回しに住民への配慮はうかがえない。海外のビジネスパーソンでなくとも眉をひそめよう。