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2024.03.21 08:00

【ロシア大統領選】侵攻への信任ではない

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 ロシア大統領選で、プーチン氏が通算5選を決めた。投票率は7割を上回り、得票率も9割近い圧勝だった。国民の幅広い支持を演出し、長期化するウクライナ侵攻への信任を得たとして、欧米との対決姿勢を強める構えをみせている。
 だが、政敵を排し、強権的な統治下で行われた選挙にどれほどの正統性があるのか。ましてや国際法に反した侵攻を正当化する根拠にはなり得ない。国際社会の声に耳を傾けて即時撤退、和平への道筋を探るべきだ。
 プーチン氏は2000年の初当選以降、首相時代を含めて政治の実権を握り続けている。ここにプーチン氏による統治のいびつさがそのまま表れているといってよい。
 20年に自ら主導した憲法改正で、同一人物は2期を超えて大統領を務められないとした半面、改憲発効時の大統領経験者にはそれまでの任期を計算しない特例を盛り込み、自身の立候補を可能にした。今回の当選で30年まで、理論上は36年まで大統領職を続けることができる。独裁色は覆い隠しようもない。
 今回も選挙の形は取ってはいるものの、その結果は国民の声を反映しているとはいいがたい。侵攻に反対を唱えた元下院議員は中央選挙管理委員会に候補者登録を拒否され、他の3候補は侵攻を批判しなかった。実質的な戦時下ながら、侵攻が選挙戦の争点にもならなかった。
 強引な締め付けもみられた。ことし2月に獄死した反政府活動家ナワリヌイ氏の妻が「反プーチン投票」を呼び掛けたが、呼応した約90人が拘束されている。ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ東部・南部の占領地では、銃で武装した兵士らが戸別訪問で投票を強制したとも伝わる。
 独立系機関が1月に行った世論調査では「ウクライナでの軍の行動」を支持した人は77%、反対は16%だったが、「和平交渉開始」への支持は52%。反対の40%を大きく上回っていた。侵攻を批判すれば刑事罰を問われかねない抑圧の中で、そうした民意は行き場を失ったのだろう。力ずくで演出した「国民の団結」には、むしろ侵攻反対の声が顕在化することを恐れる、政権の弱さがみてとれる。
 プーチン政権は新たな任期の6年間、自ら選んだ侵攻ゆえに厳しい環境に直面する。外交面では事実上、日米欧と断絶。非欧米諸国との協力を強め、国内経済の破綻は回避したとはいえ、主要輸出品の原油が中国やインドに買いたたかれるなど財政への打撃は小さくない。
 プーチン氏は「国民こそが唯一の権力の源泉だ」との声明を出したが、戦争で犠牲になるのはその国民であることを見失っているのではないか。戦闘が長期化するほど、ロシア軍の死傷者も増えていく。
 ロシアは侵攻を「国の独立と安全を確保する戦い」と位置付け、正当化してきた。だが、国際社会との対話を抜きに、その目的を実現することはできない。

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