2024.02.22 08:00
小社会 百円の男
「100均」のビジネスモデルを打ち立てた人物で、後ろ向きの発言を好む型破りな経営者として知られた。「会社はつぶれるもの」「私自身欠点だらけ」「お客さまはわからん」…。
それは、若い頃に貧乏で挫折ばかりし、先を恐れることが癖付いてしまったからだという(大下英治著「百円の男」)。真意はもちろん別で、後ろ向きの言葉は「だから頑張れる、人に感謝できる」などと前向きに続く。手腕がなければ国内外に5千店も出店はできない。
そんなカリスマだが、経済学者らにすればやや苦い存在だったのかも。「百円の男」の別の異名は「デフレの寵児(ちょうじ)」。100均の低価格路線が経済成長の足かせになったと指摘される。
ただ、目先の懐具合を優先してしまうのは消費者の性(さが)だろう。マクロの目標と個人の利益が一致しない経済の難しさは、とりあえずは暮らしやすいけれど将来が怖い「安いニッポン」の現状とも重なってくる。
図らずも、低成長が続いた日本の国内総生産(GDP)はドイツに抜かれて4位になった。かたや、歴史的な物価高が続く。そんな局面での「百円の男」の訃報を、何とも示唆的にとらえてしまう。